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ふらみいの、とうかの、言葉吐しと成長録

 高校生の頃に、いつもと同じノリで「仲良くなった友達を基にキャラを作って、冒険活劇でも書いてみよう!」と思った。
 大体、キャラの絵を描いてみたのが、高一の夏休みくらい。
 そして、好きなゲームも一致していたのでこれしかないと思い、そのゲームにちなんだ名前を付けて、物語を書き始めた。

 正直、その友達らのことは好きではあったが、どんな人間かをよく知っていたわけではない。
 だから八割くらいは自分の想像で補った。外見は十割、自分の想像だ。
 それでも散見する人間性を捉えて物語に反映させるのが得意だ、と自分を信じていた僕はとにかく書いてみれば解ると言わんばかりに、せっせと物語を書き進めていった。

 途中までは順調だった。大学生になる頃に、少し躓いた。
 社会人になってからは大いに躓いて、病んで、関係性もどんどん変わっていった。
 病んだ心そのままで書くと物語が紛い物になってしまうことを恐れて、書かない年数が増えてきた。
 書いても後で読み直して削除、加筆、そして数ヶ月後にまた削除、といったことを繰り返し、そこで無駄になった時間は数十時間に上るだろう。

 そうこうしている間に、自分も変わった。友達も変わった。
 今となっては、残っている人間関係など無い。皆、居なくなった。
 僕だけが変わらずに残っている、そういうことではない。僕も変わったけど、一緒に居ることは叶わなかった。
 その所為で、僕は完全に壊れてしまった。人に期待した自分が愚かだと、これほど痛感したことはない。
 それでもまだ書き続けた。これを書き上げなければ、死ねない気がずっとしていた。

 誰が読んでくれるわけでもない。強いて言えば自分。自分のために書き続けた。
 友達にも読んでほしい、感想を聞かせてほしい。
 数年前ならそれも容易だった。書き始めた頃は、もっと素直に聞けた。
 今は何もかもが遠い。
 実に二十年近く掛けて、物語は一応の完成を迎えた。

 その二十年の間、何もできていない日々がちらほらある。数年は確実に損をしている。
 でも、全くの無駄ではない。僕にとっては大事な軌跡であってほしい。
 これを書き上げれば、きっと何かが見えてくる。変われる。自分の中で完結するものがある。
 そう信じて、特にこの三年、四年は凄まじい勢いで書き続けたと思う。
 ちょうど最愛の友人を喪失しかけていた年数だ。正気でいられるのは書いている間だけなのかもしれなかった。

 まぁ書き上げたと言っても、まだ骨組みを作れたに過ぎない。
 ここから肉付けの作業に入る。足りない説明とか、単語の統一とか、そういった細かい部分を修正していきたい。
 それが終わったら、本当に完結。物語は次の舞台へ。

 幼馴染みメンバー以外でこんなに動かしたくなる人物が居るのか、と自分が不思議でならない。
 二十年も経って、この物語のキャラは僕の想像していたものより、ずっと良い子達に育ってくれた。感慨深い。
 だから愛着が湧いてしまって、別の話を書く時も必ず使ってしまう。
 それでもいいか。僕はプロではない。自分の望むものを自分で綴りたいだけ。

 だから完結して清々しい一方、まだ書き足りない部分とか、最後の最後に仕方ないから幸せな終わりにしてあげようとか、いろんなことを考えている。
 時が経てば何かが失われる。生きている限り、悲しいし苦しいことも続く。それで物語が終わってしまうのは、とてつもなく現実的で、だからこそ痛々しい。
 だけど、そこに少しの救いをもたらしてあげたくなった。珍しく、ハッピーエンドへの道筋を示そうと思えたのだ。
 そうなるくらいには、この子達のことが気に入っている。

 二十年も書いていると、書いていることこそが当たり前になって、完結なんてできないかもしれないと思ったこともある。
 喪失感に耐えられなくて、終わりにするのが嫌になるんじゃないかって。
 それは僕が現世でやり残したこととなって、死ぬことができないんじゃないかって。
 だが、ここまで来たらしっかり終わらせてあげなければと思えて、突っ走った。脇目も振らずに突っ走った。
 お蔭で偏りはあるものの、伝えたいことは何となく解るような気がする。粗削りな文章が二十年前とそんなに変わらなくて、顔から火を噴くこともあるけれど。

 書いていなければ自分に価値は無いと思っていた学生時代から、書いていようがいなかろうが価値が無いと思い知らされた社会人時代を経て、今はその頃の思いを一気に思い出せた気分。
 あれだけ苦労して手に入れた絆も宝物も、人間の本能や感情に左右され、失ってしまった。
 二十年掛けて馬鹿をやり通した、そういう気分だ。
 物語の中ではそうじゃない。二十年を通して、あの子達は成長し、歩き出した。僕が衰えたのは肉体だけで、感性や筆力までは落ちていないと裏付けてくれるかのよう。

 誰の為でもなく、自分の為だけ。プロではなく、アマの中でも棒にも箸にも引っ掛からない存在だが、満足感と充足感には溢れている。
 誰かにこれを読んでもらいたいとも思う。でも、批判や批評に耐えられるかな?
 僕が生きた証のようだ。そりゃ大事にし過ぎて、どこにも出せないね。勿体ない。でも、解ってほしい。

 物語は一旦の区切りを見せても、続いていくものだ。だから尊くて、ちょっと寂しくなる。
 この子達も、現代に産まれていたら、こんなふうには生きられなかった。あの世界で、あの宿命を背負ったからこそ、こういう終わり方になったんだと、自分でも納得している。
 それが僕にとっては不思議だ。僕もあの世界に生きていたなら、今とは全く違う考え方をしていただろう。
 それは周りの人も同じ。この環境、この立場だからこそ、生き方が変わっていく。
 僕は早くあの世界に帰りたい。こんな世界に来なければ、こういった失い方をせずに済んだかもしれないと、いつも悲しくなってしまう。

 心は常に続きを書きたいと、逸っていた。
 やっと最後を見通せるようになって、久しぶりに友達と話したくなった。
 それもやっぱり僕の都合で、向こうは社会人として忙しくしているのだから、もう僕の言葉が届くことはないのだろう。
 そんな果敢ないものを後生大事にしようとしていたなんて、自分はつくづく現代向きの人間ではない。
 早く終わりにしたい。死ぬのが怖い。でも、死ななければまたこの前のように失うんだろう。

 肉付け作業を終えて、書きたいことも書ききったら、やっと死ねるようになるのか。
 僕の夢の続きは、僕にしか見えない。それでもいいよ。ここで失い続けるよりは。

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 順調に調子は悪くなっていく。
 呪詛の反動か、それとも元からの気質と病気の所為か、日に日に死を思う時間が増えていく。
 それでも日常生活に支障をきたしてはならないと、短時間の仕事にも出て、家族との会話もして、友達と約束をして、日々を凌いでいる。

 いつまでその誤魔化しが続けられる?
 本当は歩みを止めたい。手元にあるもの全てを燃して、僕の生を終わりにしたい。
 だけど、いざ死のうとした時に「生きたい」と願ってしまう瞬間が怖い。
 本当は生きていたかった、忘れないで欲しかったと心から強く願う瞬間が訪れてしまったら、僕は生きている間も死ぬ間際にも、自分に嘘を吐いていたことになる。
 嘘を吐いてまで生きて、嘘を吐いてまで死んで、誰にも何も残せないなんて、虚しいな。

 不可視の仲間は言った、あの子も辛い思いをしているのだと。
 彼らは僕の居る次元とは別を行き来して、人の心情にも踏み入ることが多い。それらの情報は僕の手元には持って帰れないけど、あの子達が言葉の膜を通さずに取得できる確かな情報だと、僕は信じている。

 曰く、あの子が今まで語ってきた言葉に嘘は無い。ちゃんと僕のことを見て、時には逃げ出して、それでも僕との関係を終えることができなかったのには、彼なりの理由がある。

 曰く、今こうなって辛いのは僕だけではない。あの子自身も人からの信頼を失い、自身の価値観を覆され、戸惑いと失意の中で懸命に生きている。
 僕に話したいことも微かながらあるかもしれない。だけど、軽々しくできない仲になってしまった。情けないと思う。でも、自分で選んだことだから、投げ出せない。

 曰く、僕との関係を完全に断ちたいわけではない。そりゃできるなら話せたらいいけど、話せない。今はとにかく近付けない。近付かれるのも困る。それぐらい微妙な均衡の上に、あの子とあの子の大事な人間が立っている。

 僕はいつかあの子に「全て捨てて行方をくらませても許してやる」なんて、偉そうに言い放った。
 でも、僕のことは忘れてほしくなかった。僕にだけは居場所を教えてほしかった。どうせ教えてくれないだろうけど、もしかしたらって。
 頑張り過ぎだと思ったんだ。不慣れなことして、初めての体験に脳が浮かれて、押し寄せる日々の生活と重圧で息をつくのもやっとなんじゃないかって。
 きっとすごく頑張るだろうけど、そのうちふと居なくなってしまう気がした。
 あの子には死んでほしくないと思った。すぐに駆け付けられる距離じゃないから、せめて死ぬ前にこっちに挨拶に来いと思ったんだ。
 その時に全力で止めようと。全力で話そうと。
 僕には君が必要なんだと、誰が君の傍に居ようと関係なく君を愛していると、何度でも伝えてきたから、また伝えようと思ったんだ。

 本当にあの子が少しでも僕のことを思っているのなら、そんな期待をまだ持ってしまう。
 どうしてこんなに辛いのか解ったよ。僕は信じたいんだ。君とまた話せる時を。

 今までのこと全てが、どうせあの子が自分には関係ないからと好き勝手言っているんじゃないかと思えて辛かった。
 たかだかちょっとの付き合いの人間を優先して、そこに届きもしない僕を顧みてくれないのが辛かった。
 どうせ人間は外見で側に置く者を決めるから、君の隣に僕が並ぶことは有り得ないんだけど、それでも少しは許してほしかった。
 あの子が今まで僕にしてくれたこと全て、今の人間と至る為の予行演習にされたみたいで、大事なものとしての格差がついていくことが辛くて、それを否定しきれないほど情けない行動ばかりの君が嫌いで、学ばないとこも嫌で、良い子ぶって八方美人なとこも嫌いで、だから呪詛で以て報いを受けさせようと思った。
 君が僕に額づいてまで謝ることなど有り得ないから、そこまで僕に対して悪いなんて思っても会いにくることもないだろうから、そこまでの価値なんて今もこれからも無いのなら、こっちも実力で無理にでも歩む先を捻じ曲げてやろうと思った。

 そこまでしても、昔からの積み重ねを否定しきれない。本当は否定したくない。
 あの子にとって、僕が何某かの代替品だった時なんて無いと思いたい。他の人間と比べてとか、関係性なんかを越えて、ちゃんと繋がりがあったと信じさせてほしい。
 僕があの子にしたことは褒められないことばかりだ。他の人間と交わってさえいれば回避できたものを、二十年も縛り付けていた。
 けど、その呪縛もあの子が望んで傍に居てくれたなら、僕の心も救われようというものだ。
 そこが一番期待できない。信用できない。でも、信じたいというジレンマで胸が痛む。身体の調子が可笑しくなる。心に罅が入って二度と元に戻らない。

 もうすぐ君と会った時間分だけ掛けてきた物語が完結する。
 それを是非読んでほしいけど、ここでまた連絡したらこじれると思う。
 僕が死ねば、君は君の大事な人に許されるのか?
 僕が死ぬ時は幼馴染みか誰ぞに物語を託して、それを死後にでも渡すことは許されるだろうか?

 本当に、こんな分かたれ方を経験するくらいなら、さっさと死んでおけば良かったよ。
 何度も思ったよ。あの幸せだと感じた頃に死んでおけば、この十年何度も感じて考えていたんだよ。
 あの子にとっては大したことな時間でも、僕にとっては幼馴染みと過ごした時間並みに大事だったんだよ。
 だからこんなに傷付いた。こんなに悲しくなった。死にたいと思うのは逃げたいからなのか、贖罪からなのか、解らないけど。

 僕が家族を持っているのはこの上ない幸福だ。
 でも、こんな人間の成り損ないと一緒だなんて、彼には悪いことをした。
 もっと早く決心がつけば、もっと速やかに自分にとどめを刺せれば、無駄な悲哀を周りに撒き散らすこともなかったのに。

 これだけ苦しんで痛んで辛いのに、君だって辛いんだよって聞かされたら、そうなのかなって思ってしまう。
 だったら君と話せるようになる時まで、僕はもう少し生きておくかって。
 君の話を聞いて、君にぐいぐい物を言えるのは、僕しか居ないんだから。そう信じてしまったから。
 何でこんなにあの子の為に動こうとするのかなんて、解らないよ。ともだちだからかな。あの子のお蔭で生きてこれた部分が大きいからかな。

 半年経っても何も終わらないし変わらない。傷ばかり深まって、もう治らないんだって解って、じくじく痛む度に呪詛が深まる。
 死にたいのに、死ぬのが怖いんだ。こんなに頑張っていろんなものを手に入れて築いてきたのに。
 まぁ築いた先でいとも容易く奪われてしまったから、死にたくなったんだけどさ。
 他にも手に入れて大事にしたいものが、いっぱいあるんだよ。それらにまで期待できなくなって、信じられなくなって、そんな辛さが君に解るか。無茶苦茶言っているな。
 全部あの子の所為にしたい。思いっきり引っ叩いてやりたい。それでも僕は君の味方でありたいと思う心がある。呪ったくせにな。それとこれとは別だよ。

 要らない人なのが僕なんだって解っても、期待も信頼も捨てきれない。
 だから余計に苦しんで、辛くなる。諦め方が解らない、失い方も解らない。
 どうせ君に届かないなら、誰かに渡しておきたい。こういう存在が無様にも人に期待する
様を、誰かに憶えておいてほしい。
 ただの狂人紛いの戯言だ。あの子の目に留まればいいけど、きっと最後まで読んでくれないだろうね。

 話したら解ることがたくさんあるのに。
 君が誰と居るか、何を背負っているかは知っている。けど、どうでもいいよ。
 話がしたい。君の助けになりたい。望むなら君を殺せる者で在りたい。
 僕はどうせ捨てられるだけなんだから、君に期待されたこともないんだから、好きにやらせてもらう。
 どうしてこんなに言葉が溢れてくるんだろう。壊れてしまったから、抑えが効かないのかな。
 本当に辛いんだったら逃げてもいい。周りの人間は君への評価を改めるだろうが、僕の中の評価は変わらない。
 どうしようもない奴だが、そいつに僕は助けられた。救われた。居場所を作ってもらった。その恩を返したい。じゃあ呪うなよって、言われそうだな。

 僕を居場所として必要とし、守ってくれ。忘れないでほしいな。
 どんな関係が増えようと、どこに行こうと、あの子との繋がりがあったなら、怖いものなんて無いままいられたのに。
 君にとってそんな存在になれなくて、すまなかった。


 装うことにも、何もないように振る舞うことにも、疲れただけ。
 何を得ても失うだけだと知り、何を語り掛けても所詮は予行演習でしかないと解り、心は大層傷付いた。
 人間皆がその傾向にあるのだと思うようになった。
 恋愛して結婚して子ども産んで、人間の大役を果たす為に彼らは友情より恋愛を優先するのだ、と。
 でも、そうじゃなくて、ただ単に僕が使い捨てられるだけの存在だったのだと、裏付けが取れたのだと気が付いた。
 人間様が寂しくならないようにする、次のより良い相手を見つけるまでの時間稼ぎ、それが僕の存在意義なのだと、気が付いた。

 恋愛して結婚したって、ちゃんと友達付き合いを保てている人は、僕が知らないだけできっと世界のどこにでも居るだろう。
 勿論、伴侶を大事にして、家族が第一だという人間だって居るだろう。
 そういったいろんな種類の人間にとって、棒にも箸にも引っ掛からず、使い捨てがいいとこ、喚き始めたら一気に捨てに行く、そういう存在が自分なのだと思い出した。

 ここ数年は自信が無いながらも、自分の存在に少しは肯定的で在ろうとした。
 それは人間を信じる為の要にしていた存在によって、脆くも崩れ去った。
 相手にも事情はある、けど、君を今まで信じてきた僕にはとても受け入れ難い。
 お前は自分にできないことを、僕に言い続けてきたのか。自分の時は我が身可愛さの余りに、誤魔化して、上手くやったつもりになって、自己同一性を保とうとしているのか。
 誰かの言うことを聞いて、誰もが匙を投げるような人間を傍において、そんなことができる優しい自分に酔っている?
 たかだか数年の付き合いの人間に遠慮して、二十年に及ぶ関係を切ったのは、切る機会を探していたからか。その人間が大事だからか。
 それらの事情が理解できていても、僕はやっぱり傷付いたままだ。
 僕がどれだけ悲しんだかも知らないで、のうのうと生きて子どもを作って幸せになろうだなんて、虫が好すぎると思わないか?

 その時、唐突に思い出した。十代の時に何度も感じたことを、やっと思い出した。
 僕は常に何かの代替品だ。もっと良いものが手に入るまでの、もっと素敵な関係が作れるようになるまでの、その場凌ぎの存在でしかない。
 そんな扱いをあの子にされるなんて、思いたくない。でも、現実ではなってしまった。
 あの子にとっても、結局僕は。

 きっとこんなことを日がな毎日考えている人間よりも、多少面倒があっても愛らしい人間を傍に置きたいと思うことは、間違いではない。誰だってそうする。
 僕がこうなったのは自分の所為だ。だけど、君の所為もある。解っているだろう。
 ここでこうやって言葉を残して、何も残すことができない自分をせめて残して、こんなことが何になるんだろうな。

 だからもっと早くに死んでおけば良かったんだ。
 誰にとっても代替品だと解っていながら、自分にも良い関係が作れるだなどと、夢を見るからだ。
 気が付いたら、とても疲れた。良い子でいようとか、迷惑掛けずにいようとか、そういった善行になるだろうものに、何の意味も感じられなかった。
 まぁ、ずっと良い子だったわけじゃない。呪っているし。

 こうして精神が半壊し、脳の破壊も済んだ後、たらたら垂れ流すのは血のようなもん。
 それでも幸せになれると思い込んでいるのなら、それをいつでも破壊してやりたい。
 相手の人間関係に恨みなんて無い。勝手にやれ。
 あの子が、ここを大事にしてくれなかったことが、何より悔しい。馬鹿にしてんのか。
 だから僕は何度でも呪うし、何度でも地獄に堕ちる。精神が今より良くなることなんて、けして無いだろう。

 死ぬまであとどれくらい掛かるか解らない。
 それなのにもう一度得たものが「自分は代替品だ」という意識だなんて、悲しいことだな。
 いっそ僕は誰かに造られた機械か何かであればいい。造物主だけを盲目的に信じて、愛していけるではないか。
 人間になんか生まれるんじゃなかった。自分だけのものなんて望むんじゃなかった。
 今更言ってももう遅い。

 取り繕うのを忘れたら、僕はもっと要らない人間になる。それでいいのかもしれない。
 ひとりで死ぬのは怖い。死んでも周りの人間は僕を覚えていてくれないんだと解って、尚のこと怖い。
 この先をどうやって生きていくなんて、考えるだけで無駄だった。
 僕が辛いのに、誰も気にしないのが、普通だ。
 もっと優しくしてくれよ。僕は周りに優しくしているのに。本当にそうだろうか。
 人に望み始めたら際限が無いし、もっと傷付くことになる。
 自分が満たされずとも他者に優しくできるだけの人間になるには、もっと心を喪うしかない。
 もう壊れる部分なんて残っていない。だから疲れた。何も要らない。どうせ捨てられる。

 そういえば、夢の中で電話がかかってきていた。
 これがもし現実になったら、少しは精神も上向きになるのかなぁ。

そういうものがあると、死ぬのが怖くなくなるとお思いですか。
 僕には解らないことばかりです。
 ただ死ぬ時に「本当は生きていたかった」と思い出すのが怖くて死ねません。
 死ぬことは消えることか、失うことと同義だと思ってきました。
 死んだら夢が叶うならそれも良し、だけど生きていれば叶うものは手放すことになります。
 生きていたら叶うものって、何だろう。

 この先をただ生きていても、せっかく築いた関係や環境を失うばかりだ。
 その分だけ手に入れてきたものも確かにあるが、失った穴を埋めるためのものではない。
 遠い時間を過ごして、いつかの思い出に走馬灯を巡らせて一人死ぬことができればいい。
 それができないなら、ここで恐怖を克服して死ぬことも救いになるかもしれない。

 或いはならないだろう。
 救えるものはこの世に幾何も無い。元から無かった。
 救いの幻想を見ることができるのは、何かを信じ続けられる人だけだ。
 僕にはできなかった。できないまま死んでいく。
 自分で断とうとした瞬間に思い出す情景は、きっと僕をどこまでも傷付ける。
 死んで灰になるまでに消えるのは、思い出も精神も同じだ。
 なのに、その一瞬だけが怖くて堪らない。こんなに何かを怖がったことがあったろうか。

 また傷付いて、心の表面の血液が乾く間も無く、思い出す。生傷が勝手に増える。
 それを知らずに、醜いものから離れられて安心しきっている人間が居る。
 僕の呪詛はまだ完成していない。永劫に呪い続けるのが決まっているようなもの。
 それを知っても知らなくても、人間達の営みには関係ない。
 信じたいものだけ信じる彼らには、何も届かないと思われる。
 じゃあ、僕が死んだ後も残る呪詛は無駄になるのでは?
 させないために、子孫を、現在の環境を余すことなく呪いに浸すんだ。

 相手から切り離されたことに気付いて、愕然としている自分にまた驚かされた。
 どうしてそんなことをするのか、理由に予想がついているのだけど、それでも傷付いた。
 この繰り返しで緩慢に死を感じ取るのが、僕に与えられた罰だと思おうとした。
 でも、僕だけが苦しいのは、悲しいのは、どうしても納得がいかなかった。
 捨てられる道理が解っていても、実際にそうされるのは嫌だった。

 いろんなことが解っていて、理屈もこねられて、相手に理解を示すふりができる。
 だけど、それをやりきってしまうと、自分の心が大変なことになる。
 そうなった時の責任をあの子が取ってくれるわけではない。
 そうやって今までやってきた。あの子の言葉を受け取ってきた。
 それは無駄にしないつもりだった。嘘になりそうなのは、僕の所為じゃないと思いたい。

 これらの感情も言葉も、どうにか相手に伝えておくれ。
 夢でも呪詛でも何でもいいから、余すことなく伝えておくれ。
 何も知らず、何も感じず、そのまま生きていくなんて許されないだろう。
 僕は許さない。

 或いは話の場を設けて対面でなら、違う可能性を見い出すこともできるだろう。
 僕にはその自信がある。たぶん向こうも対面なら違う。
 それができない。それをさせない。
 異性愛者の憂いと呪いと怒りが深くて、他者の関係を壊してでも守ろうとする。
 気概には天晴と思うが、君が立ち入っていいような場所ではない。
 そんなことも解りたくないのか。話にならない人間だ。
 そんな人間を好きだというのか。君はやはり愚かだ。

 誰が誰と一緒に居ようと関係ないと思っていた。
 僕との関係を大事にしてくれるなら、間に何かが挟まれることはないと。
 そんなことないんだ。家族だとか伴侶だとかは、平気で他の関係を踏みにじる。
 人間の本能と義務に則って、異性愛者が我が物顔で主張する。
 反吐が出るその言動に、僕の大事なものは壊されてしまった。
 その言動を受け入れた君は、何がどう転んでも許せないのだ。

 いつか再会できることがあるかもしれない。一緒に笑う日が来るかもしれない。
 誰かが持たせてくれた希望の分だけ、深みに沈む。
 言ってもいいなら何度でも言いたい。どうして僕がこんな目に遭わなきゃならない。

 知らない場所でこうして言葉を繰る姿が、不気味に見えるだろう。
 誰が壊したのか知っているか。誰が嘘を吐いたのか憶えているか。
 伴侶を得た時から呪いは始まっている。気付いていないのは当人ばかりだ。
 僕は君と話がしたい。ちゃんと「お前を許さない」と伝えたい。
 正面から堂々と自分の力で呪い、言葉をぶつけてやるんだ。

 果たされない、いつまで経っても果たされない。
 僕はもう疲れているのに、キッカケさえあれば再燃する。勢いだけはある。
 本人に加害すれば済む話なのか。そこまで全てを捨てられるのか。
 僕ばかりが苦しいとは思いたくないが、きっと僕ばかり疲弊している。
 君が探す気にならなければ、見つかりっこない。きっと見つけてくれない。
 本当に僕は君に必要ない人間だったんだ。二十年も経って、こんな思いはしたくなかった。

 夢の中でも会えるならマシ。
 次に会った時は殴らせてほしい。
 君も僕を殴るといい。
 それで次にいけるなら、これほど安上がりな手は無い。
 来世ではもう少し仲良くありたい。他の人間とのいざこざなんて持ち込まないで。
 僕は人間じゃなくていいから、そばに居ても許される存在になっておきたい。
 どうしてそうまで固執するのだろう。僕にももう解らない。
 それが気持ち悪いのなら、君が僕を壊しにくるといい。
 死んでも残っているのは、愛に似た執着だけなんだよ。


 ここまで憎しみやら悪意やらに駆られて、身体を壊してでも呪詛を完遂しようとして、心が死にゆくことにも耐えようと試みてきたが、燃えカスだけがここに残っているのだと見えるようになった。
 どれだけ感情をこねくり回そうと、どれだけ悪口雑言を叩こうと、全く以て届かない。
 そもそも同じ気持ちになんてなったことがない。

 僕は相手に僕の唯一無二の相棒になってほしかった。半身とも言える親密な関係になってほしかった。
 しかし、それは何度も断られた。断ってきたくせに、相変わらずその人間は傍に居てくれた・・・・・・気がする。

 全てが僕の勘違いだったなら。全てが只の無責任な優しさだったのだと諦められたら。
 何度も考えたところで、二十年の付き合いは解消されない。それこそ記憶喪失にでもならない限り、忘れ得ることはできないと思う。絶望でしかない。

 それが相手の中に少しも残っていないのだと思うと、心はまだ死のうとする。
 僕が傷付いたなら、相手にも同じように傷付いてほしいと思うのは、何故だろうか。
 そんなことばかり言っているから、隣に居てくれないのだ。選ばれないのだ。
 ここで一人何度も傷付こうと、それに気付いてもらえることは未来永劫、訪れない機会なのだ。
 そういった絶望や失望や孤独が、何度も僕の心を殺す。また生きようと藻掻く心も、かなり聞き分けのない存在である。

 ここまで傷付けてきた代償を払ってほしいと、呪詛を繰り返し唱えた。実行した。
 それがどれだけの効果を生んだか解らない。妄想だとしても、結果が欲しい。相手に何かが起きるのか、それとも僕が可笑しくなるのか、結果が欲しい。
 それでも毎日が無常に訪れる。何も変わらない日が続く。
 身体だけが悪化の兆しを見せる。長く生きてきた罰を受けているのだと、自分を誤魔化すことにも疲れてきた。

 こうやって傷付くのが、何故自分だけなのか。
 それとも相手も何かのきっかけで傷付いているのだろうか。
 少しは僕のことを思い出してくれるだろうか。
 忘れたい、やっと離れられたと安堵している頃だろうか。

 僕ばかりが考えて、つのらせて、絶望して、日陰に籠る。
 人間になれない。大事なものになれない。蔑ろにいつもされていると思いながら、日陰からずっとあの子を見ていた気がする。

 僕は知ってほしかった、傷付いたことも、僕がものすごく怒っていることも、同じくらい悲しんでいることも。
 君が逆立ちしてもできないだろうことを、僕はこの十年余り続けてきた。君の傍に居たかったから。僕の為だ。
 それでも、響かない。僕は選んでもらえない。
 もっと優れた人間だったなら、良い外見を貰えていたなら、そしたら少しはその目にも留まっていたのだろうか。

 去年からずっとこの問い掛けが続く。もう何百回も何千回も続く拷問のような問い掛けだ。
 僕は、僕のことばかりだ。君のことも少しは考えたい。きっと君も辛かった。僕はそれを知っているけど、見たいものだけ見てきた。君が悪者になるように。その上で、僕が悪者となれるように。
 これだけ思いを綴っているのを知れば、大多数の人が気味悪がって近付かないだろう。
 君もそうだろうか。だから今、こうして関係が途切れつつあるのか。
 それが不可抗力だとして、君がその状態を受け入れているのが悲しい。僕との付き合いを断ってまでも、他の人間を優先するのは当たり前か。それでも悲しいものは悲しいのだ。

 ただ思うことはたくさんある。その一つ、また仲良くできるだろうか。
 もう今世はいい、疲れた。考えるのにも、思うのにも疲れた。精神の異常はすぐ身体に影響を及ぼして、楽しいことをしていても思い出すんだ。何度も繰り返されて、本当に心が休まる時が無いんだ。
 君も誰かの為にそんな思いをしているのだろう。辛いだろうし、苦しいだろう。その力になりたいと思う反面、僕の苦痛を少しは知ってほしい。これだけ辛い思いをしながら、僕はその傍に居たかった。

 何でだろう。離れたくなかったのだ。大事にしたかったし、ともだちだったから。
 人から見れば恋愛でしかないが、僕は君の子孫を残したいと思ったことはない。
 僕が人間の姿でなければ、もっと容易く相棒という立場に収まっていられたのかも。
 君を守ることができるのが僕だけだったならなぁ。
 ファンタジー脳はいつも夢を見ながら、現実を踏みにじる。

 たくさん呪って、たくさん言葉を綴って、たくさん夢を見て、もう心身共に限界だ。
 本当に休みたい。脳が片時も眠ることなく動いているみたいで、きっかけにより思い出すと全力で稼働するのが癖になっている。非常に疲れる。
 冷凍睡眠でもさせてほしい。身体も心も何も考えることなく、気付くことなく、百年くらい眠らせてほしい。

 疲れ切った心の影響が身体にずっと出て、最近ではその痛みが治まらなくなってきた。
 この器も長年使って劣化してきたから、仕方ないよな。あちこち不調が出て、替え時になっても替える先が無いんだ。
 もっと強靭な身体と心があれば、もう少しだけ生きやすかっただろうか。

 心身があまりにも痛みに素直なので、これが終わるなら死にたいとも思う。
 だが、死ぬ直前になって「やっぱり生きていたかった」と思うのが怖くて、一歩を踏み出せない。
 直前の心境なんて、その時になれば解らない。ただでさえ、死にたいと思った瞬間に景色が輝き出すのだから、僕自身は死にたくないのかもしれない。
 そこに気付いてしまう瞬間が、何より怖かった。取り返しがつかない。

 たった一人と分かたれただけでこれだ。
 でも、その一人は誰かを信じてみようと思うきっかけであり、要だったんだ。
 この人なら大丈夫だと、信じたかったのだ。信じさせてくれると思った。
 そんな重要な位置に勝手に据えられて、相手も迷惑していただろうか。
 否、勝手にではない。向こうもそれは知っていた。知っていて、こんなことになった。馬鹿野郎が。

 さんざん呪ったし、怒ったし、傷付け返してやりたいところだが、僕は僕の為にも君の力にはなろう。それはそれ、これはこれだ。
 だけど、その連絡を取ることはおろか、現状を知る手段も無い。
 そうして時間が空いて、きっと向こうはもっと環境を変える。僕のことを忘れていくだろう。
 それは僕が良しとできるものではない。相手の都合だから、僕はやっぱり忘れられるだけなんだ。

 できるとすれば、死ぬ前に書き上げた物語を送りつけてやろう。それが遺作ということで。
 感想ぐらい欲しかったけど、どうせくれないだろう。周囲の人間に配慮して、いつもそういうとこだけ馬鹿正直だ。僕への配慮はどうした。
 君より先に死ぬのを目標にしよう。それで少しは後悔してほしい。でも、それもきっとしない。それくらい、僕の存在は君の中で小さく、もう消えていくものなんだ。

 それを認められるようになるまで、まだ掛かる。その間、ずっと苦痛が続く。僕の心はもう壊れられそうな部分が無い。
 だから、君には憶えておいてほしい。どうせ知らないまま死んでいくだろうが、君は誰かにこんなにも愛されていた。愛は執着そのもので、醜くとも欲しがらずともそこにあった。
 君が欲しかった愛は、別の人間にもたらされる優しい微風のようなものだったろう。望んでいない場所から熱烈な感情が飛んできたところで、戸惑うのも無理はない。
 僕が欲しかったのは、同じように思ってくれているという実感だった。環境や思考がどんなに変わろうと、大事なものを手放さなかった僕のように、大事なものを守るためにあれこれ思案する君でいてほしかった。

 僕から離れゆく方が楽だとは思う。
 それでも、そこはもう少し頑張ってほしかったな。同じじゃなくても、少しでもともだちだと思ってくれているなら。
 それとも、そういった奇跡や友情とはハナから無縁の人間だったかな。恋愛や家族を大事にし、それ以外を顧みないのが本性だったかな。
 だとしたら、それを見抜けなかった僕が悪いのだろう。やっぱり人間なんて、特に異性愛者なんて信用するべきじゃなかった。

 思うんだ、きっと僕が外見も内面も優れた人間だったなら、君はここに居てくれただろうと。
 そうならなかったから、もうここで話は終わりなんだけど。
 理解できないなら、もういいや。いつだって僕の心情は理解し尽くしてもらえない。
 何を信じれば良かったのか、誰に打ち明ければ良かったのか、これから君も僕が味わった辛苦も苦痛も知ることになるだろう。
 その傍らで話を聞いて支えてあげたいけど、僕は君を呪い呪い、何度も呪ったから、先に死んでいくだろう。

 もっと真っ直ぐともだちでいられたらな。仲間でいられたらな。
 どうせ失われてしまうとしても、こんな形は嫌だった。
 失わずに済むと思えるなら、もっと早くに死んでおけば良かったんだ。

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