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ふらみいの、とうかの、言葉吐しと成長録

 深層意識を変えられたらしい。自分ではよく解らない。
 でも、そう言われたことが大事なのかもしれない。
 僕にはきっかけが必要だったから。

 彼女は姉さんと違い、本当に光の中に居る人だ。
 しかしながら、陰も知っている人だと思える。
 今この時に、そういう力を持つ人に逢えたことは何かの啓示のようだと感じてしまった。

 僕の意識が変わったとて、恐らく僕のやったことは変わらないし、果たされる。
 でも、もう囚われなくていいんだと思うと、心がとても楽になったようだった。

「自分が無いんだよ。
 復讐のため、呪うために生きているってことは、相手と同じ場所で生きているってこと。
 あなたはもっと上に行けるのに、彼らに合わせたレベルでそこに居るんだよ」

 そうお叱りを受けた。自分が無いと言われたのは正直、ショックだったけど。
 まぁ、でも、そうだろうな。僕はいつも誰かに依存して生きていたから。
 あまりにも強い思い入れで、恋愛だと勘違いされる程だったから。

 先生をして、僕の傷は根深く、話を聞くのが辛いと言われた。
 負の力が強過ぎて、何をしても拒絶されてしまうと。
 だけど、僕は生来、人の行いを素直に受け入れようとする人間の筈だった。
 僕が変わりさえすれば、きっとその意味も理解できると自分で思ったものだ。

 僕はいったい誰の為に生きているのか、何の為に生きているのか、何度も考えた筈のこと。
 それを今また身を以て知ることになろうとは。
 怒りと悲しみで我を忘れるとは、こういうことなのだな。
 祟り神にでもなっていた気分だ。鎮められることで、ようやく自分に戻れるのだろうか。

 勿論、そこに至るまで、多くの友人に話を聞いてもらったことが支えになっている。
 そうして少しずつ歩み、何とか手繰り寄せ、手に入れた機会が先生からの施しだ。
 なので、僕にとっては全てが必要な手順だったと理解している。
 きっかけは先生だったけど、その地盤を固めてくれたのは友人らなのだ。
 そこには感謝してもしきれない。僕は何度も救われている。

 僕が誰かを救おうとか、幸せにしようとか、そこまで大それたことは言えない。
 だけど、誰かが立ち上がる力になれればいいとは、今でも思う。
 そんな単純なことさえ忘れていたから、伝えた。後は届くことを願うばかり。

 少しだけ先生に師事することはできるだろうか。
 僕にはまだ学びが必要だ。
 やっぱり僕の勘は間違っていなかった。
 もっと強くなれれば、セレナ達を穢れさせずに済む。僕自身も。

 必要なのは僕が僕を救う技術だ。
 自分を救えるのは自分だけ、それはずっと前から解っていたことだ。
 だから、その足掛かりとなるよう願う。

 炎を吐く龍は、少しは気が済んだのだろうか?
 そんなイメージを言われたのは初めてだった。
 人形とか、波打ち際のない海と砂浜とか、静かなイメージが多かったのに。
 それすら覆す程の怒りと悲しみは、確かに僕を変えたと思う。
 龍はまだ飛べていない。もう少しだけ時間が欲しい。
 いつかまた逢える。僕はまだ強くなれる。
 希望とは、なんと甘美なものだろう。

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あれからかなりの時間が経った。
 と言っても、三ヶ月くらいだけど。
 体感では、一ヶ月の間に三ヶ月が過ぎたようなもんで、毎日が目まぐるしく、さりとて何かが劇的に変わるわけでもなく、淡々と過ぎていった。
 淡々としていなかったのは自分の精神状態だけで、思考もぐるぐる思考というやつで、どんどん後ろ向きになり、いきなり前向きになり、かと思えば墜落するという変化をいつまでも繰り返していた。

 周囲の人間には結構話したと思う。ネットで知り合った友達から、昔馴染みから、いろいろ。
 自分から離れていた友人にも連絡を取ってみたり、仲直りしようと試みたり、その過程でいきなり相手の都合により音信不通になることもあった。
 その度に自分が相手に掛けてきたコストを思って、「人間は勝手だ」と息巻いた。
 結局、自分の思い通りにならなかったから、悔しくなっているだけだ。

 僕はいつもそうだったと思う。自分の思い通りにしたいし、思い通りの返事が欲しい。
 他人は自分を気持ち良くするための道具で、他人も僕を代替品として扱うし、踏み台にして次のより良い関係を構築する。
 今回、僕が壊れた原因になった人は、僕を踏み台にして新しい関係を構築し、それを守る為に僕を切り捨てた。
 そのことが僕を苦しめ、悲しませ、不安にさせた。どうしようもなく壊れてしまったけど、器はまだ生きている。精神もかろうじて形を保っている。

 自分が被害者面することに余念が無いが、自分も悪かったのでは? という反省点も持っている。
 というのも、占いでそこを指摘されることがしばしばあった。
 最初は「傷付けられたの、こっちなんすけど???」て怒ったもんだけど、そも僕の行いによって一つの家庭が崩壊しようとした事実は否めないのかもなーと思い至る。
 そりゃー相手間に信頼があれば何てことない問題だったが、そうではない。なにせ特殊なお人を娶っており、僕もそのことは解っていたが、読みが甘かったのだ。
 向こうが喧嘩することは向こうの責任だが、僕が発端になってしまったことは、それはそうなのだ。
 そこは認めてやらんでもない、と、そういう気持ちになってきてはいる。

 僕は巻き込まれた側だと思っているし、ノンケの恋愛脳に嫌気が差したので今後は差別の対象だなーとも思っている。
 だけど、僕が引き起こした事実というのもあって、それはきっとあの子を苦しめたのだ。
 そこであの子が選択したことを、僕がどうこう言うことはできないかもしれない。
 いや、やっぱり納得いかない。捨てるんなら僕じゃなくて、別のものにしてほしかった。そんなこと言うから捨てられるんだけど。

 これから先、どこかで関わる機会が持てるかもしれないと誰かが言う。
 相変わらず不可視の存在は「願いは叶うよ、時間が掛かるだけで」と、僕の精神の延命に必死だ。
 どうしてこんなに苦しむのか、辛いのか、何がそんなに特別だったのか、自分でも解っていない。
 十六夜が生まれてひと月、あれから少しずつ変化はあれど目に見えて起こっているわけではない。確認する気力も無い。
 僕がまだ地獄に居るのは僕の都合で、相手が介入できる余地はもう無い。
 僕もあの子も、互いに自分で生み出した地獄に入っている。そのきっかけはお互いにあったかもしれないけど、ここまで来たらもう関係ないのかもしれない。

 僕は変わらなきゃいけなかった。九月に一度死んで、そこから徐々に生まれ変わっている最中だ。
 そこで手に入れたものを誇れるほど、まだ自分に自信が持てない。傷は深く、人間関係にトラウマを抱えて、叶いもしない希望を糧に日々を長く感じながら過ごしている。
 それでも光明はあるのか。生きてさえいれば、摑めるものがあるのか。また失ったりはしないのか。
 まだそんなことを怖がっているようじゃ、僕の成長も大したことないな。
 あの子を失ったと言えるようになっただけ、成長というか、自覚は生まれているんだ。そんな急に切り替えていけないよ。
 切り替えられるんだったら、あの時もこの時も僕はここまで壊れることはなかったよ。

 願いは叶うと信じよう。あれだけの労力と時間を掛けたのだから。
 でも、その願いって何だっけ。僕は何を願っていたのだっけ。
 傷付いて悲しんで苦しんで、その後はどうしようと思ったんだっけ。
 僕は何か重大な思い違いをしているのかもしれない。

 一年経って、心はゆっくりと現実に馴染み、納得いかない物事を徹底的に考えている。
 僕はそうやって進むしかない。捨てたり、諦めたり、見ないふりができない。
 それを人に話すのは、話を聞いた相手が重たくなってしまうから、あまりやってはいけない。
 僕がしなきゃいけないのは、自分の感じたことを表現することと、人に感謝することなのだろう。
 そうして願いは成就する。これまでの苦痛が報われる出逢いをもたらす。
 僕が僕にもたらせるものは、こうして生み出される筈だ。
 負けたままではいられない。僕は必ず手に入れる。でなきゃ生きている意味が無い。


 身を焼き尽くさんばかりの光を浴び、自分も見えなくなるほどの闇に堕ち、そんな乱高下の激しい精神で辿り着いた今日。
 ほんの二週間前に死にそうになっていたことは記憶に新しく、というか昨日のことのように感じ取れるし、なんならまだ終わっていない。まだ僕は死にたい生きたい辛い苦しいを繰り返している。そう簡単に抜け出せるものではなかった。

 信じると決めても、何かのきっかけでひどく落ち込む。
 もういいやと諦めようとしても、ここで諦めたら永遠に途切れてしまうのではと不安になる。
 どちらも不安障害から来るものなれば、薬でどうにかすることもできよう。
 自分の性格から来るものなら・・・・・・やっぱ死なないと治らないかな。
 生物として、本当に欠陥だらけだ。前も向けず、後ろを眺め続けることもできず。

 先日、夢の合間にやってきた白い青年はサザンと名乗った。
 サザンと言えば某人気グループしか浮かばなかった僕は、もっと良い名前は無いのかと思ってしまった。
 彼は白い髪に白い患者服のようなものを纏い、猫目だった。控えめながらもしっかり喋る子で、ごく自然にうちを訪れた。

 サザンが元々居たのは、あの子の住んでいる方だった。
 僕が呪詛を行った後、土地神が離れ、牛鬼のような奴らが餌場として活用すると息巻いて出ていった後、居場所が無くてこっちに来たのだという。
 これは正真正銘、僕の行いによる被害者なので無碍にはできない。すまんかった。

 夢の合間に彼は言った。自分がここに来た理由と、界隈ではちょっとした騒ぎになっていたことを。
 巫子が久しぶりに力を使ったと、彼らの間では少し騒がれていたらしい。姉さんが何かした方が影響力は強いだろうが、僕が何かやってもそれはそれで気になる連中が居るようだ。
 それで渦中の巫子が気になって、ここまで来たのだと。

 サザンは何人かの人間の気配を覚えていて、僕の辛い気持ちだとか苦しい思い出を知って目を丸くした。
「巫子ともあろう人が、あんな人間を気に掛けているのか?」
 第一声はこんな感じだった。君らは皆して同じようなことを言うな。

 だけど、皆そう言った後、必ず言うんだ。「大丈夫だ」って。
 何が大丈夫なの、どう大丈夫なの。僕が壊れると不都合が生じるから、てきとうなこと言って延命させたいだけなんじゃないの。
 それでも皆が言う。「大丈夫だ」と。その先は言ったり言わなかったりする。

 サザンは「大丈夫だ、反省しているから」と言っていた。
 いくら反省してくれていたって、それがこっちに伝わらなきゃ意味ないじゃん。行動に移してくれなきゃ解らないじゃん。
 でも、あの子が僕に関して責任取ろうとしたことなんてほぼ無いし、反省していようが考えを改めようが、こうして離れた時はいつも僕から話し掛けなきゃ、再構築もままならなかった。
 そんな子が、反省したとて、悪いと思っていたとて、自発的に動けるだろうか。しかも僕の為に。信じられないし、期待できない。
 でも、だからこそ信じたいし、期待したい。他の人間との付き合いを経て成長しているのなら、今までは無かった誠意だろうが行為だろうが、僕相手にも見せてくれるかもしれない。

 そうやってぐるぐる思考に陥って、泣けもしないほど傷付いて、自分が悪かったのか相手が悪いのかなんて疲れてくると、サザンは少し困ったような顔をする。そんなことで傷付くんだ・・・・・・という感じの顔だ。
 巫子って呼んでくれるのは嬉しいけど、今は人間だもの。人間になんて生まれたくなかった。こんなことでって思われることで容易く傷付き、壊れるんだよ。

「そうして悩めるあなたの為に、偉大なるお二方が動いてくださっているのでは」と言われた。
 確かに唐突なタイミングで闇の主と再度意思が繋がり、光の君が降臨した。あれは風呂場でだったか。相変わらずタイミングが悪い。
 二人の反応もやっぱり「え、そんなこと?」て感じだったけど、僕が傷付いているのを知ると、力を貸してくれると言っていた。
 ただ、二人の力を貸すということは、どういうことなのかを考えておいた方がいい、と誰かに言われた。紅弥だったか、エシュだったか。

 僕の力ではどうにもできない。藁にも縋る思いで、何だって試す。
 それほど追い詰められた。誰も傷付けずに、僕は僕の大事なものを取り戻したいだけ。
 不可能かもしれないけど、やりたいの。解り合える機会があるなら、是非とも話したい。
 僕のそういう思考を、主も光の君も愚かだと思ったことだろう。
 でも、仕方ない。今は僕も同じ世界に生きる人間だもの。まだ手放せない。どうして。代わりなんてどこにも無い。

「巫子の考えることは不思議なことばかりだ」と呆れたのか、感心したのか解らないようなことを言われた。
 まぁ、僕もそう思う。病気もあるとはいえ、些か偏り過ぎではなかろうか。
「あなたはあなたの意思と力で好きにできるのに、そうしないのか」みたいなことも言われたが、好きにできないのだ。
 僕の力はバッファー向きだもの。そんなこと十年前から解っていた。自分で対象絞って何かやろうとすると、絶対に失敗するんだよ。失敗とまではいかなくても、目標を達成することが困難なのだよ。
 この前だって結果を確認する形になったけど、ほぼ向こうは無傷だよ。ちょっと体調崩したかなくらいで。もっと大きな何かが起きれば自分に自信も持てたろうけど、こんなんじゃ無理だよ。

 そうして泣き言ばかりの巫子にサザンはより一層、困った顔を見せる。あまりにも俗っぽいから、聞いていた話と違うって思っているのだろうか。
 器である姉さんが有名人だったのはまぁ解るけど、その寵愛をいっとき受けただけの巫子なんて、みんな記憶に留めてもなかったろう。否、時間の感覚が違うなら、つい昨日のことみたいに知っているのかな。

「巫子はすぐ自分を傷付けるんだな」と言われる。んなこと言われたって。
 自分に都合のいいように考えても、絶対そうじゃないって思いが付き纏う。間違っているのに、ちゃんと現実も見ないで良いことだけ見て生きていくのは、軽蔑している人間達の生き様そのものだ。
 だけど、人間として生きるならその方がよっぽど良い。幸せになれるし、傷付くことも少ないし、少なくとも人間の責務は全うできる。彼らは人間であるためにそうするのだ。

 そうできない人間も勿論居る。僕はそういう人達の方が好ましいと思って、近くに居る。
 サザンからしてみればどちらも愚かしいかもしれないが、僕にとっては身近な存在なのだ。愚かだろうが何だろうが好きなのだよ。

 陽が射す方が温かい。こんな僕にも優しいし、光を与えてくれる。
 いつかこれも取り上げられる。僕が浴びるには勿体ないもんばかりだった。

 サザンにとっては期待通りではない巫子だっただろう。僕の知ったことではないが。
 人間ひとり思い通りにできない。力があっても上手く使うことができない。自分の感情も思い通りにできない。誰かに頼ったって、何度言葉を繋いだって、不安に勝てなかった。
 どんどん状況や立場が悪くなっていって、ここより下に行くことが怖くて、でもいつか行くことになるだろうと思っていた。
 もう来てしまった。何年も前から危惧していたことは、ここのブログを遡れば解る。
 こんなに長いこと恐れて、ひとりで不安を抱えて、育てて、壊してしまったんだな。
 話しても、あの子が、きいが向き合ってくれないって思って、ひとりで抱えてしまいこむしかなかったんだな。しまえてないけどさ。

 今だったら違うかもよ。なんだかんだ僕の話はちゃんと聞いてくれるだろ。
 そりゃ逃げ回るし、責任とか取りたがらないし、自分のこと悪く言われるのにも慣れてないだろうし、僕に言われるのも不服だろうけど、聞いてくれないことはないよ。
 そうやって目の前で話してきたし、逃げたの追いかけたし、喧嘩もしたし、赦したじゃないか。それも完全な形ではなかったが、何とか繋げてきたじゃないか。
 向こうだって解っていたよ、ここが特別な繋がりだってこと。周りに理解はされないだろうってこと。だから、僕ときいとでしか守ることができないんだって、そこまで知っておいてほしかったよな。

 昔の僕よ、辛かったよなぁ、苦しかったよなぁ。何年も一人で考えて、抱えて、人に話しても「向かい合ってもらえなかったんだね」って、すぐバレてさ。
 そうして僕が抱えた辛苦も孤独も、人に執着することを覚えた今のきいなら、少しは解ってくれるのかな。
 そこでやっと報われることを望むよ。願うよ。そうすることがきいにとって良いのか悪いのか、そこまでは解らないけど、僕はきいのこと知りたいし解りたいし、僕に対してもそうしてほしいね。

 上から目線ですまない。僕にも解らないことばかりだ。
 ただ、何かを犠牲にしたまま何かを得て、その犠牲が僕ばかりなのは、ちょっと納得いかなくて。当たり前だろ。
 話したいな。全部ぶつけて、同じものを背負ってほしい。誰が傍に居るとか関係ない、ここでのことに他の人間を交えて、いったい何になる。そうじゃない。

 解ってほしい。解りたい。仲良くしたい、同じように望んでほしい。
 誰も傷付けることなく、失うことなく。
 僕はきいの言ったことで随分と傷付いたが、向こうもたぶん僕の言ったことで傷付いたことくらい、あると思うんだよな。

 いつも醜いものが溢れて、暗い感情ばかりになって、辛くて苦しくなってどうしようもなくなるけど、それら全てをこうして形にして吐き出していくと、最後に残るのはいつも「仲良くしたい、失いたくない」だけだ。
 僕が好きだった居場所は段々と消えていく。でも、思い出の中にちゃんとある。君らの中にも、忘れられているだけできっと存在している。それが信じられるから、まだ生きているのだと思う。
 きい、だっけ。この子にも届いてほしい。彼女がどれだけ信じて、好きで、嫌いで、必要としていたか、ちゃんと伝わるといいな。
 そんな小さなことが伝わらないほど、残酷な世界じゃないんだろ、ここ。
 最後には何かしらが報われて、救いだと信じられるようなことが起きるといい。起きてほしい。

 サザンはやっぱり困った顔をしている。でも、ちょっとだけ笑った。
「巫子は夢想家って言うのか、夢見がちなんだな。でも悪くないよ」
 喧嘩売られてんのかな。

「この人間と繋がれるかどうかは解らない。でも、繋がれるといいと思う。その為にお二方が来てくださった。こんなにもあなたは愛されている。人間ひとりと繋がれない道理なんて無いと思うけど、どうなるかは解らない」
「でも、繋がりは消えていない。だったら大丈夫だと俺は思う。黄色でも、緑でも、青でも、その人間との大切な繋がりだから、消えない。消さなくていい。あなたが望むものを手に入れられるよう、祈る」

「捨てなくていい。いずれ光は当たる」

たった一週間の間、山のドン底に居て、谷の頂点へと昇った。
 死にたい、生きたい、苦しい、辛い、悲しい、ごめんなさい、などなど様々な感情が交錯して、消えて、浮かんで、また生まれて死んだような状態。
 今までで何度目かの挫折と苦痛で、何もする気が起きなくて、食欲まで落ちて、もう生きていく気が無いのだと思った。

 その一方で、最後に縋りたい、話したいと、片っ端から友人らに話をした。
 去年からここまで、話し始めたら際限がないからと遠慮していた間柄にも話をしまくった。
 みんな、快く話を聞いてくれた。「抱え過ぎないで、辛くなったら話してくれ」と言ってくれた。
 これが自分の築いてきた財産なのだと、改めて知った。

 べつに友人らを軽んじていたつもりはない。話が通じないなどと思っていたわけでもない。
 だけど、何となく僕は一度頼ると依存して相手に迷惑を掛けてしまうのでは、と恐れていた。それを恐れて、あまり人に話をしないようになっていた。
 あの子しか頼れないと思っていたわけじゃない。でも、憚られると思って、話をしないでいた。

 あの子と話せなくなってから、いろんなことを感じた。多くは負の感情ばかりだったけど。
 その間、友人らとただ一緒に遊んだ。話をした。それがどれほど救いになっていたか、解らない。
 家族にも救われた。もう前の家族のように、知らぬ存ぜぬはしない。ちゃんと解決策を共に考えてくれて、カウンセリングや病院にも理解があって、援助だって惜しまずにいてくれる。
 今の僕には、これまで泣き言を零して自分に自信が無いながらも築いてきた、多くの関係があった。ちゃんとあった。

 そう考えたら、やっぱり二十年を重く受け止めるあの関係を、簡単に諦めることはできない。
 それでも、今は時間と距離を置くのがいいのかもしれないと、やっと思えるようになってきた。まだ先のことは解らないけど、もしかしたらまた話せるようになるかもしれないと。
 その反対の可能性だってある。二度と話せず、このまま会えないまま、関わらないまま、それぞれ生きていく可能性。
 それを考えるのはまだ怖いし、悲しい。未だにどうしてこんなに拘るのか、自分でも解らないけど、離れるのが耐え難く、ただ痛かった頃より、少しだけ楽になれた。
 この先で交わるということを、信じられるようになったのかもしれない。

 未来を信じるというのは、誰にでもできることではないと思う。
 自分がいつ死ぬか解らない、この先を生きていくなんて考えられない、そういう年数を重ねてきたから、十年後とか二十年後のことなんて真剣に思ったことはない。
 長期戦になると分が悪いから、いつも短期決戦だった。明日死ぬかもしれないから、さくさく決めて刹那を生きるのが正しいと思っていた。
 それが、少しだけ自分が長く生きることを許せるのではないかと、初めて思えた。

 勿論、今は友人らに聞いてもらった直後だから、奇跡に感動して楽観視しているだけという見方もできる。人間、すぐさま明るくなれるというわけじゃない。
 だけど、明らかに四日前と比べて、冷静になれた気がするのだ。思考に変化が起きたのだ。

 おまじないでも、音楽でも何でも使えるものは使って、相変わらず会いたい。
 会って話がしたいと思うし、ともだちやめたくないし、失いたくない。
 だけど、本当にここで会えなくなったとしても、もしかしたら受け入れられるかもしれない。
 次の世界で会えたらいいなって思えるようになれるかもしれない。
 可能性ばかりだが、今までは顔を背けて言葉にもしたくなかったものを、少しずつ受け入れている。
 僕は会いたい、話したい、失いたくない。相手にもそう思ってもらえたらいいと、願っている。
 それが無理だったとしても、あまり責めたくない。もう責めたくないとか、善人ぶって思っている。

 悲しくないわけじゃない。虚しくないわけじゃない。トラウマになったし、思い出すと引き戻されて辛くなる。
 だけど、誰もが「それ以上もう傷付く必要はない」と言ってくれた。「自分のことを貶める必要はない」と言ってくれた。
 僕はそう言ってもらえるだけの価値があったんだ。そういう関係を、この三十五年の中で苦しみながら、失敗しながら、作ってこれたんだ。これが僕の築いたものなんだ。

 まだあの子に話し掛けてしまう。呼び掛けてしまう。癖みたいなものだ。
 だけど、その声から険が薄れていくのが解る。ちょっとずつ。
 僕はまた凄い速さで変わり始めたのだろう。その中でも変わらずにいよう、大事にしようと新たに決めたものがある。
 馬鹿を見ることが多いけど、やっぱり素直に誠実に在りたい。

 また挫折するだろうか、傷付くだろうか、辛い苦しい死にたいと涙することはあるだろうか。
 そこで手に入れたものを手放さず、大事にできたらいい。僕にならできる筈だ。
 そうやって信じて、みっともなく生き恥を晒しても、また会えるかもしれないなら、その方がいい。会いたいし、話したい。きっとそうなると信じたい。

 僕は寂しがり屋だから、やっぱり自分の相棒のような人が欲しいと思ってしまう。
 家族は居るけど、僕の物語を読んで、歌を聴いて、僕の深奥に触れてくれる相棒が欲しいと思ってしまう。
 あの子はそこに近かった。そういう人間をまた欲してしまうだろう。
 新しい関係を手に入れられるかもしれないと、そんな予感はある。きっとまた素敵なものを見つけられる。
 あの子に会えるなら、また会いたい。何度でも言える。しつこいかもしれん。

 もうちょっと成長したら、きっと今度は君を支えられる。役に立てる。
 だから、また話したい。遊びたい。ちゃんと受け止められるようになりたい。なる。



 と呼んでいい状態である気がする。

 数ヶ月、自分の中にわだかまりが生じた時に吐き出して、書き連ねて、何度も何度もそれを読んだ。
 同じようなことばかり書いてある。同じ苦しみ方をして、同じ悲しみ方をして、心がどうにもならない状態だとよく解った。

 そうして、壊れた。突然、壊れた。
 それは自分で願っていたことのようにも思う。
 相手の近況を知ることで、自分のやったことが如何に意味が無かったか、自分が如何に傷付いたかを知るのだ。
 それに何の意味があるのか。首の皮一枚で繋がっている今を、容赦なく斬りおとす為だ。
 そうしなければ、いつまで経っても同じことで苦しみ、泣けもしないのに悲しいと言い続けるのだと思った。

 疲れていた。とても疲れた。
 何百回、何千回と繰り返したのだから、そりゃ文章だって似通ったものになる。
 辛いのも、苦しいのも、いつまで経っても終わりそうにない。自分の所為だと解っている。
 酷く落ち込み、死にたいと願い、最後は助けを求めることなく消えられるまで、自分を徹底的に追い込むしかなかった。

 無論、そうすることで事態が好転するわけではない。そんなことは解っている。
 それでもやるしかない。もう終わりにしたかったから。耐えられなかったから。
 そうして壊れた。壊れきったと思いたかった。幸い、理性は残っていた。

 一日、何は無くとも泣いていた。気を抜けば涙が出た。
 自分の愚かさと、虚しさと、重く垂れこめる喪失感で頭痛がした。食欲も失せた。死にたいとさえ思った。戻りたい、帰りたいと。
 今のあの子は知らない人だ。もう僕の知っている子は死んでしまったんだ。
 現在のあの子を否定するようなことはしたくなかったけど、自分を保つ為にそこまで思わなければならなかった。

 泣いて泣いて、それでも楽にならない。いつまで経っても苦痛は纏わりついてくる。
 久しぶりにオンラインの友人と遊んだ。話はできなかったけど、声を聴いたら何だか安心した。
 その後は何も覚えていない。薬を飲んで、早々に転がった。夢を見た気がするけど、覚えていない。

 昼間は何もする気が起きない。何も手につかず、ぼんやりと音楽を聴く。
 ガムランだったり、水の音だったり、癒し効果があるとされるもの、或いはアンビエントなど個人的に癒しとなる音を求めた。
 その間、スピリチュアル系のことも調べた。この胸の痛みに説明がつくなら、何だって良かった。

 外に散歩に行って、音楽を聴きながら不可視の子らの声に耳を傾け、帰ってからおよそ一年何があったのかを思いながら、一本の小話を書いた。
 書きながら、いつも僕の人生ではいろんな人間と会ってきたが、その縁が切れそうな頃にまた別の縁が見つかっていることを思い出した。
 加えて、最近では途切れていた縁をまた復活させることもできた。自分が連絡しなかったってのもあるけど、失いたくないと思って連絡しようとしたことを思い出した。

 それから、何となく誰かと会える気がした。またどこかで縁を作れる気がした。
 あの子に会いたいと思った。無理かもしれないけど、いつかは会える、会いたいと何度も思った。
 腹立つし、言いたいことは山ほどあるし、忘れられない傷をつけられたし、話せないだけでこんなにも胸が苦しい。
 あの子の人生に僕は必要ないかもしれない、邪魔になってしまうかもしれないと、恐れている部分もある。
 だけど、それより何より話したかった。また遊びたかった。安心できる居場所を完全に失いたくないし、あの子の役に立ちたいと、力になりたいという想いが、いつまで経っても消えない。

 認めるしかなかった。赦すしかなかった。
 だけど、それは自分に課せられた使命のようなもので、それを越えた時にまた何かが手に入るのだと思えた。
 不可視の子達は僕の周りで様子を見ている。僕が常闇の主と会う時も、夢を彷徨う時も、ずっと近くに居てくれる。
 彼らは言った、「諦めないで」と。「あの子とまだ繋がっているのだから」と。
 どういうわけか、そう見える部分があるようだった。僕は繋がりを保てているのだろうか。

 自分の傷も辛さも苦しみも、放置できない。
 だけど、それ以上にあの子と離れ難い。浮気とか、不倫とか、そういう後ろ暗い理由じゃない。
 必要なだけだ。あの子にも必要としてもらいたいだけだ。僕はそういう存在になりたくて、いつかは頼られたくて、特にこの五年は頑張っていた筈だ。

 落ち込み過ぎて、天井に来てしまった気分だ。
 この跳ね上がり方は果たして良い上がり方なのか?
 このテンションのままなら、電車にだって飛び込めそうなものだが。

 あの子にとってはいい迷惑かもとか、心配する気持ちはまだある。
 でも、否定しきれない。まだ一緒に居たい。来世で会う前に現世で会いたい。
 離れていても繋がっているなんて、気の利いた一言を言えるような人間じゃない。だから、解らせるしかない。
 あの子に不幸なことは起きてほしくない。幸せでいてほしい。でも、僕のことも忘れないでほしい。我儘かな。

 人には理解され難い感情、内容だと思う。それも解っている。
 しかし、人に理解してほしいわけではない。あの子に伝わってほしい。
 もう呪わなくていいし、もう怒らなくていいんだ。僕のやることが変わったんだ。
 でも、やったことは事実だ。そこまで追い詰められたのも事実だ。その咎はこれからまだ続くだろうから、甘受せねばならない。

 どん底に堕ちても、凄い速さで這い上がれるでしょう。
 昔から、そうだった。人よりも数倍の速さで脳が働く、情緒が動く、次の行動が決まる。
 負けて泣いて立ち直る、君の速さについていこうなんて。正にその通りで。

 普通こんなことあったら友達やめるだろ~と引かれる気はするが、まぁいいではないか。
 魂ごと離してしまうようで、その繋がりを断てないのだ。或いは、いきなり断てる日が来るのだろうか。

 解らないことだらけだけど、何かに会える。誰かと会える。それは解っている。
 あの子と話したい、また遊びたい。それも解っている。
 その為に成長しようというのだ。

 大人と子どもなんて、曖昧な線引きは昔から嫌いだ。
 僕は成長するしかない。そうしなきゃ摑めないし、先に進めない。
 先の景色が見たいから、いつもせかせかしていた。今もそうだ。
 成長するしかない。もう始まっている。

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