忍者ブログ
ふらみいの、とうかの、言葉吐しと成長録

 僕の幸せを壊した人が居る。
 安心できる場所を奪い、時間を奪い、それでも自分は幸せになれると思っている人が居る。
 安心の代償はその人自身が払えばいいものを、ツケを払うことなく人生を謳歌している。

 自分が幸せになれるだなんて、信じないでほしい。
 僕がどういう人間か、もう忘れてしまったのか。
 なら、何度でも思い出させてやろうと思った。
 その為の手段を選ぶことはないやと開き直った。

 その人にとって僕は取るに足らない存在だったが、僕にとっては大事な人だったのだ。
 そこで得られるものは等しく宝で、代わりなんてどこにもなかったのだ。

 しかし、その人は代わるものを見つけていた。
 僕など必要なくなり、否、元から必要なかったことを裏付けるかのように、選択した。

 僕はまた選ばれなかった。また傷つけられてしまった。
 被害者面をすることは容易いが、このまま泣き寝入りなんて御免だ。

 だから、比類なき悪としてやってやろうと意気込みを顕にする。
 お前らは加害者になることを恐れて理屈を並べ立てるだろうが、僕は諦めた。
 お前らを被害者側にしてやる。これでちゃんとした被害者になれるぞ。

 きっと代償なんて、誰も払いたくない。
 だから勝手に払ってもらう。気付かないうちに失って嘆けばいい。
 それも運命だったと諦められるなら、人間として成熟しているんだなって思える気がする。
 僕のことは諦めるの早そうだけど、他の人間に対しては諦めないだろうから。

 誰にも恨みなんてない。恨めるほど知らないから。
 今まであったことが虚偽とは思わない。立場や環境が違えば、主義思想は幾らでも変わるから。
 でも、それはそれとして許せない。居場所を奪ったことが、どうしても許せない。
 その気持ちを晴らすために、犠牲を強いることになろうとも、僕は一向に構わない。

 周りの人間には理解されなくてもいい。理解できるわけがない。
 無茶苦茶なことを言っているのかもしれないし、途方もない阿呆なのかもしれない。
 ただ許せない。許してなるものか。
 許せるようになる日が来るまで、絶対に離れないものを送ってやる。
 どんな結果が出ても、許せるその時までやめることはない。

 そこまで拘る程の価値があるのか? と問われる。
 無いかもしれない。
 だからこそ、余計に許せない。
 そんなものに気を許して長い時間を掛けて理解し合った気でいた、愚かな自分も同罪だ。
 僕だけが地獄に堕ちるのは納得いかない。足を引っ張っても尚足りない。

 許せない。たったそれだけで時間が過ぎていくけど、きっと必要なことだと思う。
 理性に感謝してほしい。

PR

 どちらにもなるという万能なる概念が死であると思った。
 どうにも鬱の気が治まらず、さりとて望む変化も起きない日常に、精神の均衡がだいぶ崩されているこの頃。
 夫婦でのカウンセリングだとか、こっちらから連絡を入れてみるとか、そういった行動を起こしてみようと幾つかやってみたものの、余計に絶望する機会が増えただけだった。
 何故、一つの物事に対して三つも四つも悪感情を持たねばならないのだ。
 それだけ感度が良いのかもしれないが、生き難いことこの上ない。今更でもあるか。

 終わらない絶望と失望に加えて、呪詛の行程もなかなか進まず、まんじりともせずに過ごすのは結構辛いものがある。
 変化がもし起きていたとしても、目視で確認できる距離ではない。それも痛い点かもしれぬ。
 相手の近況を知るにはSNSに頼るのが一番だが、それだって見れば多少なりとも傷付くものだ。
 あぁ、こいつはやっぱりわたしが居ない場所の方が生き生きしているな、と残酷にも突き付けられてくるから、キツイのだ。

 いったいどれだけ繰り返せば終わるのか。
 これは呪詛を始めたからではなく、わたしが生きることをやめないから続いているのか。
 どうしてここまで手に入れたものを、他の人間にむざむざと奪われなければならない?
 異性愛が悪いのか、わたしの性質が悪いのか、あの子が悪いのか、たくさんの要因が絡んでいるから断定できないのか。

 わたしは異性愛者を憎む。すぐにわたしから大事なものを奪うから。
 奪っても「恋人、夫婦になるのが当たり前だ」と思っているから、悪びれもしない。
 浮気をしろ、不倫は正義と宣っているわけではない。
 立場を弁えろと言うなら、ぽっと出のお前達こそ弁えたらどうだ。
 こうして傲慢なのはわたしも同じなのだから、そりゃあ衝突するだろうな。

 今まで何度も死にたいと願ったが、その度に苦しくなって誰かしらに助けを求めてきた。
 助けられて繋いだ命だが、それも人生の黄昏時にはきっと多くを失ってしまうのだろう。
 そんな寂寞の時の為に培った人間関係ではない。
 子を産んだからなんだ。伴侶を見つけたからなんだ。
 わたしはわたしを忘れられたくないだけで、こんなことばかり言っているから捨てられるのだということも理解している。
 理解しているが、やはり悔しい。何故、わたしよりも秀でたものを愛していくのだ。矛盾。

 それで、死にたいという話だが、これはどう頑張っても達成できそうにないと思っていた。
 なにせ死に方が解らない。否、方法を知ったとしても、そこに向かうまでの精神状態を保つことができない。
 首を吊ろうと思って縄を買うとして、買い物に行く時にはたと気付いてしまわないか?
 いざ飛び降りようと眼下の景色を見て、足が竦んだ瞬間にあぁと気付いてしまわないか?
 自分が本当は生きていたいんだと、気付いてしまったらどうするのだろう。
 それが怖くて身体が動かない。
 死のうと思うと、世界が急に淡い光を帯びて美しく見えてくる。
 こんなに美しい場所から、自ら去ろうとういうのか? と語り掛けてくる、気がする。

 わたしは臆病だし、痛がり屋だ。だから死の間際まで怖いことは感じていたくない。
 しかし、このまま漫然と生きていくのも恰好が悪い。とにかく次の段階へ進みたい。
 誰かに殺してくれとでも頼むか。そいつはわたしの辛苦を呑み込んでくれるだろうか。
 わたしのことを全て聞いて、それでもわたしを殺してくれる人間が居るのなら、きっとわたしはその人間の芯まで愛するだろうに。
 執着したとて、それもまた無意味なのだが。

 無意味、無価値であるなら、わたしはどうしてここまで生きてきたのだろう。
 本当はそれに気付いていたけど、気付いていないふりをして希望に縋っていたのか。
 縋る希望を全て失って、改めて突き付けられた現実を認めざるを得ないのか。
 人並みの幸せを知っただろう。それ以外の苦痛も或る程度、味わってきただろう。
 絶望と希望の繰り返し、持てる荷物の質と量のきまり、わたしがどれだけ欲しても振り向かない人々、全てが無意味で無価値なものの群れか。
 わたしこそが無意味で無価値だということは、大前提としてある。
 なにしろそんなことを三十年近く考えてきたのだ。わたしの命は夏の短い間に死ぬ蝉みたいなものだ。
 幼稚園の園庭で見た蝉の死体は、遠からず今のわたしの惨状だったのかもしれない。

 本当はもっと早くに死にたかった。
 人を信じることの砦が崩される予感はあったから、そうなる前に終わっておきたかった。
 でも、失った後も死ぬのは悪いことだと思っていた。
 今はあまり思っていない。きっとわたしが居なくても、伴侶となった人間は生きていけるから。
 友人達もそれぞれの家庭や居場所を持っているから、わたし一人失われたところで、それはいつか忘れ去られるのだ。
 それほどわたしの死は小さく、無意味で無価値だと知ったのだ。

 わたしが死んで動揺する世界を見てみたかったぞ。
 みんな、どれほど泣いてくれるのだろう。あの子ははるばる大阪から来てくれたりするのかな。前も言ったけど、死んだ後に来るぐらいなら生きている間に来てほしいよな。
 ちったぁ自分が求められる側に居たんだって、自覚できたりするのかな。
 そして、不可視だった守護者達と同じ次元に来て、永久に会えなくなるのかな。

 世界はループしているんだって、誰かが話していた。
 わたしがここで自殺したとして、次に目が覚めてもまた自意識の芽生えが幼稚園の頃からだったら、この何も得られない人生をもう一度体験しないといけないのか。
 それとも、どこかで分岐が発生して、望む未来へ渡れたりするのかな。
 そしたら、みんなともう一度会える。今度は大事にできるし、してもらえるかもしれない。
 前世の記憶を引き継いでループできることって、幸せなのだろうか。
 死んだ瞬間に次の自分へ意識が移るなら、それは拷問になったりするんだろうか。

 同じことの繰り返しを回避できるんなら、してみたいもんだ。
 堕胎を回避、別離を回避、喧嘩を回避・・・・・・そうやってルートを変えてしまったら、ここにはもう着かないんだろうけど。
 今の自分に満足はしていないが、ループしなきゃいけないと思うほどの嫌悪感も無かった。
 ただ死んで戻れるなら、それもいいかって思ったりした。

 夏は死にたくなる季節だ。冬は眠りに就きたくなる季節だ。
 一年の殆どをそんなことばかり考えて、なんて愚かな生き物だろうと笑ってほしい。
 代わりなんて居ない筈だけど、代わりが欲しいと思った。
 わたしと対を為して世界を愛する人間が居るなら、わたしを見つけてほしいものだ。


 誰かが見つけてくれることを、切に願う。
 何度も同じ苦痛を繰り返し味わって、擦り切れても尚生きる心から、感情が無くなっていくのは当然だ。
 感情が無いのか、それとも感情の発露はあるけど、それを感じられない程に疲弊し、感度が鈍くなっているのか、自分では判断できない。
 そうまでして生きていくことの意味もよく解らない。

 大事なものを幾つもつくってきたが、いずれも人生の伴侶を得て去っていったように思う。
 それが人間の正しい形なのだといくら理解しようとしても、孤独感は消えない。
 伴侶をつくり、子を成し、それだけで満たされるのなら、彼らに出会うまでに築いてきたものはいったいどんな意味を持っていたのか。
 勿論、まっさらな状態から伴侶を得ることはできないし、子を成すにしても親となる人間に経験や知識が無ければ、蛙の子は蛙のままだ。
 だから、自分の家族をつくって、人間として殖めよ増やせよという目的を達することが、皆の中に無意識に刷り込まれた本能なのだと思うことにした。
 そのためには個人が抱えられる荷物の質と量は決まっており、そこにそぐわなければ、いくら大事にしていたと嘯いても容赦なく捨てられるのだと気付いた。

 捨てられる側の気持ちは、捨てる側には理解できないだろう。
 持たざる者の孤独は、持てる者に気付かれることはないだろう。
 そうやってすれ違って、でも最後には家族に看取られ、親しき者の死を悼みながら、自らの生を終わらせることが人間らしさなのかもしれない。
 そこにそぐわない自分こそが可笑しく、成長できていないのかもしれない。

 子を欲しいとは思わない。愚者が愚者を産んでも何の役にも立てはしない。自分のことで手一杯なのに、また他者を中心に生きていくことなど御免だ。
 誰かの期待通りに生きても、自分が満たされることは少ない。本当は望んでいないのに、誰かに認められて、必要とされたいからと、自分に嘘を吐いて生きていたって虚しいと感じる。

 わたしの大事にしたいものは皆、伴侶を得、或いは生き甲斐を得、自分の力で生きている。
 それに比べてわたしの幼いこと、無力なこと。人として生きるには、社会でまっとうに生きるには、わたしには何の能力も無い。
 生まれてくるべきではなかった、その言葉がこれほど似合う人間も居ないだろうと自嘲する。もう何度もそう思ってきた。使い古した自嘲の言葉は、もうわたしの心を如何程にもできない。

 何度も何度も考えてきたのだ。誰の言うことも予想できるくらい、一人で自分のことを考えてきたのだ。
 だから偏りはあるだろうし、間違いはあるかもしれない。重要なのはわたしにとってそれが現実だっていう意識だけだった。
 そこに踏み込める人間は数少ない。もしかしたら一生会わないで終わっていたかもしれない。
 そうして会えたものを、何故諦めねばならない。どうして失わなければならない。

 人間を信じることの、最後の砦だと思っていた。それはわたしの勝手な言い分。
 何でも預けることができて、故に甘えてしまった。それはわたしの勝手な行動。
 何とか一緒に居たくて様々な方法を使ってみた。それはわたしの勝手な愚挙。
 どんなことをやっても、気持ちが通じ合えた感覚を摑めなくて、わたしばかりが相手を必要としているような状況が苦しくてしょうがなかった。
 相手にそう言えば、そんなことはないと言うだろう。
 だが、わたしがもう感じ取れないのだ。その部分がどうしようもなく壊れてしまっていたのだ。
 相手に必要とされていても、それを感じ取ることができない。嘘なのだろう、きっと他に良いものを見つけて去っていくのだろうと、信じきれずに心を潰す。
 それは同様に相手の心を潰す結果となり、信じたかった人間と離れてしまうことになる。つまりは自分の所為だ。

 ここ四年近く、苛まれ続けた。わたしはわたしの大事にしたかった者が伴侶を持ったことにより、変質してしまうことを強く恐れていたから。
 本人は「自分は変わらない」と言うが、解っていないだけだ。わたしには見えているだけだ。
 その子は変わってきていた。というか、伴侶を得たことによって、普通の人間に近くなったと感じた。
 もうわたしと過ごしていた時のように、不思議な話に耳を傾けてはくれないだろう。同じ床で話をすることもないだろうと、わたしの中で何かが終わった。
 とはいえ、わたしとその子が常に一緒に居たわけではない。あの子がどんな人間なのかなど、わたしが知らない部分はきっと今でもたくさんある。

 わたしはその子の伴侶にはなれない。選ばれない。そんなことは十年も前から解っていた。
 ただ一緒に居たいとか、話を聞いてほしいとか、頼ってほしいとか、そう思っていた。それを本人に伝えてもいた。
 吾ながら重かっただろうと思う。しかし、あの子は慣れていた。わたしがどれだけ重くなろうと、醜くなろうと、慣れていたのだ。
 だからわたしが今どれだけ傷付いていても、自重で潰れかけていても、きっと慣れているから気付かない。
 否、気付いたとしても、何もしないだろう。自身の伴侶を裏切るわけにはいかないから。

 それだけ、わたしとその子を隔てるものが増えた。
 何がいけなかった。わたしがいけないのか。それとも異性愛が横行しているからいけないのか。
 わたしは異性愛者を憎む。わたしからすぐに大事なものを奪うから。奪っても、それが当然だという顔をするから。
 わたしの大事な友人を、大事なものを、人間の本能に勝るわけがないと奪っていく。お前達はわたしにとって比類なき敵でしかない。お前達の大事なものを奪ってやりたい。

 しかし、わたしはどうしようもなく無力だ。
 いつか居た姉さんみたいに不可思議なことができれば、意のままに異変を起こして、奴らを引っ搔き回してやれたことだろう。
 異能の力が無くとも、知恵があればどうにかできたかもしれない。
 わたしには異能の力も、誰かを負かすための知恵も無い。
 わたしに人は殺せない。それも二十年も前に知ったことだった。

 その子に伴侶ができたこと、いずれは自分の家族を持って人間の目的を果たせることを祝福できない。
 そうして祝福してやれない自分の狭量さに辟易する。まぁ、わたしが祝おうが祝わなかろうが、その子は勝手に生きていくのだが。
 わたしのことも時々でいいから思い出してほしい、などと思ったものだ。
 だって君はわたしのことを思い出さないでしょう。君が辛くなった時、悲しくなった時は今までもあったけど、わたしを思い出してくれることはなかったでしょう。
 これからは、君の隣には君が選んだ伴侶が居る。その幸福を噛み締めて、明日を生きるのでしょう。

 わたしはまるで日陰者だ。そんなわたしもいつか、その子に相棒となってほしいことを願った。
 だけど、それはすげなく断られてしまった。日常を変えることを恐れたと言うが、わたしと共に居るのが苦痛だったのもあるだろう。
 今のあの子なら、頷いてくれるのか?
 わたしの相棒になってくれと、何かあったら止めてほしいと、願えば聞き届けてくれるのか?
 君もまたわたしに何か役割を望み、必要としてくれるのか?
 そんな機会、もう永劫に訪れない。君は君自身の問題をどうにかできるだけの力を持っているし、わたしのことを思い出さないだろうから。

 その子への未練を断ち切るには、まだ時間が掛かる。
 どこかでいきなり糸が途切れるように切り替えられない限り、わたしのその子への依存は続くのだろう。
 相手にはもう家庭があり、まっとうな人間として社会で生きているのにな。なんと哀れで、気持ちの悪い話であろうか。

 幼馴染み、友人たち、姉さんへの気持ちを一つずつ、時間を掛けて片づけてきた。
 まさかこの子への感情まで片づけねばならないとは、人生とは何が起きるか解らないものだな。
 この子への気持ちを片付けるのは、いったいどれほどの時間を掛けることになるだろう。
 代わりとなる存在を探してみようと思ったことも何度もあるけど、代わりなんて居ないのだ。この子がわたしの代わりを得る必要は、無いだろうけどね。

 どうしたらこの気持ちは、苦痛は、終わるだろうか。何度も考えた。
 結局は死ぬことしか思いつかない。死ぬことしかできないとは、現状を言うのだ。
 死が救いになればいいけど、そんな都合のいい話はきっと無い。
 それにわたしは生前に手に入れたものに愛着がある。
 それらをすべて捨ててまで死ぬことに価値はあるだろうか。

 いずれは死ぬだろうが、自決なのか、病死なのかは解らない。
 わたしは今すぐに止まりたい。それも何度も願ったことだ。
 死にたい、死にたいと口にするほど、本当は死にたいわけじゃないと気付くものだ。
 救われたい。わたしはわたしを救いたい。もう苦しまなくていいようにしてあげたかった。

 わたしが大事にしてきたものを手放すのには、勇気が要る。
 もしわたしが本当に死ぬのに成功したとして、いったい何人が気付いてくれるだろうか。泣いてくれるだろうか。
 あの子がそれを知ることはないだろうけど、知ったら花を手向けに来てくれたりするのかな。
 それすらも無いかもしれない。君がわたしに会いにきたことなんてないし、そんなことできるなら僕が生きているうちに会いにきてほしかったよ。

 同じ気持ちを持つことはできない。そう解っているのに、こんなにも悲しい。
 諦めるとその分だけ、心が死ぬ。それは誰も気付かない死体で、腐っていくだけだ。

 地上がこんなに変わってしまうとは思わなかった。病気、人心の荒廃、社会に潜む巨悪などなど、まるで映画の世界だと誰もが思ったことだろう。
 その中でわたしの心は同様に荒れている。そんな時に必要な人が、もうどこにも居ない。心細くて、寂しいな。
 そうやって感じるのもわたしだけなのだろう?

 いつまで経っても、どこに行っても、わたしだけ。
 誰かと繋がれたと思っても気の所為で、相手は別のものを大事にして去っていく。
 そんなことを繰り返すだけなら、どうして僕はここまで生きてきたのだろう。
 本当は僕が生まれるべきじゃなかったから、こうやって失っていくだけなのか。

 妄想だって信じ切れば現実だ。僕はいつか僕が夢見た世界へ帰る。
 その前に大事にしていた人と話をして、仲良くしたかった。こんなこと書きなぐっているようじゃ、到底、無理だ。
 何も楽しくない、心にいつも影を感じる日々も、やっぱり何度も体験してきた日常だ。
 僕の心はもうどこも傷付く余白なんて無いのにね。どうしてこんなに自分で自分を苦しめるのだろうね。

 君に話せたら、また苦しむのだろうか。それとも、新しい何かを得られるだろうか。
 少しは僕の気持ちも解ってほしい。現在の、人に対する執着を覚えた君なら、僕の計り知れない感情も、少しは解るようになったのだろうか。
 君は正しいことをしているだけなのに、受け入れられない僕が悪いのだ。

 そうやってあの子への気持ちを片付ければ、死に一歩ずつ近付ける。
 いつかは死ぬことに恐れを抱かなくなる。失敗した時のこととか、今ある大事なもののことを頭から捨てて、次の段階へ進むことができる。
 そうやって「僕が死んだら泣いてくれるかな」とかも浮かばなくなった時、初めて僕は僕のために死ぬことができるのだろう。

 わたしが居なくなっても、悲しくはない。寂しくはない。君には君の選んだものが傍にあるから。
 君に選ばれなかった者の嘆きが、届く奇跡などあろう筈もない。
 これが依存ということだ。これが共に過ごした時間の中で得てしまった感情だ。
 もっと大事にしてあげられたら良かった。すまない。

 死ぬ準備をもっと進めよう。この先を生きるには、あまりにも心許ないから。


生まれ変わったKは外見こそ同じやったものの、話し方や一人称からして変わった。
服装の趣味まで変わってて、気が付いたら以前のKを感じさせるものが
段々と減っていってたんや。
Kの周りの存在はそれを自然なこととして受け入れているようで、
ワイも受け入れるしかないのかなって思うようになった。

Kの周りの存在にとって、Kは自分達を投影するための器であって、
その人格については極端に悪くなければ、別に頓着しないようやった。
Kには家庭があってんけど、そこでの問題とか干渉とかも特に気にしてなくて、
好きにやらせておったよ。
前の人格の時は家業にちなんだ仕事しとったけど、
生まれ変わった後はアパレル業に勤め始めた。
そんな感じで、前のKとは違う生き方をしはじめていて、ワイは複雑な気持ちやった。

Kの精神的な自立はもちろん喜ばしいことやし、
ワイともまだ仲良くしてくれている。
せやけど、ほら、前のKはワイのこと好きでおってくれたから、
それがとっても嬉しくて、居心地良かったワイとしては物足りんかった。
でも、それを伝えてしまうと、今のKを否定することに繋がる気がして、
ワイが気持ちを切り替えればいいんやって次第に心掛けるようになった。

その頃、Kは好きなことを好きなようにしていて、世界が広がっとった。
ワイは自分に飽きられるんちゃうか、捨てられるんちゃうかって、
見捨てられ不安に駆られるようになった。
元から依存体質やし、Kほどワイに執着してくれる人は居らんかったから、
好き好きオーラが無くなって寂しくなっとったんやな。

そんなワイやから、Kが他の人と仲良くするのを見るのは辛かった。
前のKがもう居らんって理解しとる筈なのに、どうしても前のKに会いたくなった。
もうワイだけを見てくれることはないし、
ふたりだけに視えるものもどうでもよさそうで、
Kは毎日楽しそうに生きとった。他人と関わっとった。
前のKならしり込みしてやらないようなことを、どんどんやっていく。
ワイは精神的においてけぼりを食らっとるけど、Kは前に進み続けた。

周りの人間と上手くいっているKを見て嫉妬していたワイは
Kと喧嘩することが増えてきた。
ある日、KがSNSで仲良くなった人と今度会うんやって言ってて、
ワイはそれを聞いて「ワイには会いに来てくれへんのに何で?」て腹が立って、
それに近いことを言ってしまったんや。
そしたらKも怒ってもうて、
「何でそんなことを言われないといけないのか?
何かアドバイスがもらえるとすら思っていたのに」
と、ひどく落胆した様子やった。

ワイはますます腹が立って「目の前で話して」「謝って」と言ってしもた。
そしたらKは冷ややかに
「何で僕がわざわざそんなところまで行かなきゃいけないんだ?」
と言い放ったんや。
その時やっとワイは、Kの中のワイの価値を知った気がした。
同時に以前のKに未練を抱いていたのが、
天使のハンマーで殴られたかのようにさっぱり無くなった。

その件についてはKと後日仲直りできたんやけど、
ワイは不可視の存在以外の話をKとすることは減っていった。
しかも、そのへんの喧嘩を境に、Kはまたしても生まれ変わっていた。
どんどん知らないKになっていくし、ワイとのことも薄れていく。
せやけど、Kは自分の身の回りの人間は大事にしてて、
ワイは所詮その程度の存在でしかないんやなぁって悲しくなった。

そうしたら、ある日、Kと連絡が取れへんようになった。
SNSの欄に名前が無くて、メールも電話も通じんようになっとった。
今までもSNSのアカウントを削除することは度々あってんけど、
完全に連絡が取れんくなることはなかったから、めっちゃ驚いた。
少し待ってれば向こうから連絡してくるかと思っとったけど、
全然そんな気配は無かった。
家まで行ってみたけど、誰も居ないようやった。

とうとうワイは嫌われたんか?
それにしたって何も言わずに消えるなんてひどい。
どうしてそうやってワイのことを傷付けるんや。
自分は周りの人間と違うみたいなこと言うて、
結局同じやんけ。
そんなこんなで恨み節が止まらなくて、ワイはその虚しさをどうにかしたかった。

Kと連絡が取れなくなって一ヶ月そこら経ったくらいに、
全然知らん人からSNSの連絡先にメールが届いた。
そこには
「Kのことを知っていますか?
私がKを殺してしまったかもしれません」てあったんや。
何が何やらワケ解らんくて、とりあえずその人とメールすることにしたんや。

その人を仮にYとしよう。
YはKと恋人関係にあったようで、Kと会ったこともあるらしい。
しかし最近、ワイと同じく連絡が取れんくなって、
どうやってかワイを見つけて訊いてみようと思ったらしいんや。
Yは恋人関係言いよったけど、Kは家庭持ちやから、不倫していたってことになる。
まぁワイもKと好き好き言い合ってた時期があるから、人のことよう言えんね。

それにしてもYの言った「Kを殺してしまったかもしれない」の発言が
どこに結び付くのか、ワイはさっぱり解らんかった。
内容を訊いても「もしKが死んでいるなら私の責任です」みたいなことしか
言われへんねん。話にならんかった。

そうやってYが、自分とKには特別な関係があったんやって言ってくるのが、
ワイは気に入らんかった。
ワイやってKと不可視の世界を共有しとるわボケェって思いながら、
「Kが死んでいるとは決まっていません」と繰り返した。

Yと話してみて解ったことは、Yもまた精神的に病んでいるってことやった。
Kもそうやった。というか、生まれ変わりってのも、
多重人格やって言われた方が納得できるレベルや。
普通に考えるならそう。でもワイはKとの特別な世界を捨てられんかった。
そこに無粋にも入ってくるYの歪んだ性愛が憎くて仕方ない。

ワイは辛抱できんくなって、Kに直接会いたいと思った。
ネットで怪しいサイトを見ていって、人探しを受けている探偵らしき人に
Kの使われていた電話番号とメアドを教えて、探してもらったんや。
その探偵らしき人はわりとすぐにKを見つけてきてくれた。
費用は3万。でも惜しくも何ともなかった。

Kは元いた県より3つは離れた県で暮らしとるようやった。
そういえば、そこにKの親戚が居ると以前聞いたなって思い出して、
先ずは手紙を書いた。
勝手に調べてごめんってことと、何で急に居なくなったのかってこと、
ワイのメールアドレスを書いて、ドキドキしながら投函したんや。

程なくして、Kからメールが来た。
いきなり手紙が来て驚いたよって出だしから始まり、
何も言わずに連絡先を断って、家まで引っ越したのは
Yがしつこかったからだと書いてあった。
どうやらYはKのストーカーになっていたらしく、
家まで来て、家族が出て対応してくれた程やって書いてあった。

ストーカー云々の話はワイも人のこと言えん。
けど、ワイの時と同じようにKは自分の中で勝手に話を終わらせて、
Yにも何も言わずに去ったんちゃうかなって思ったんや。
そんなことされたら、一部の性質の人間は気になって後を追うよ。
きちんとケリをつけずに居なくなったKにも問題はあるって、思ってしもた。

Kは親戚の家に家族と一緒に身を寄せていて、
そこでもう暮らしていくことにしたみたいやった。
その頃には3人目の子どもも産まれていて、
またKは生まれ変わっていた。
「君に対する激しい愛情はもう無いけれど、
仲良くしてほしい」みたいことがメールにあった。
またしても心を打ち砕かれて、もう涙も出んようになった。

古くなった皮を捨てるみたいに、Kの人格? 心? がどんどん変わっていく。
ワイのことを好きでいてくれたKも、
Yと恋人ごっこして満たされていたKも、
伴侶はビジネスパートナーだなんて冷笑してたKも居らん。
ワイと話していたのは、家族が大好きで伴侶が大好きで、
不可視の世界のことなんて忘れてしまったかのような、
幸せいっぱいのKやった。

何ヶ月も経たないうちに、Kとはまた連絡が取れんくなった。
でもワイはもう調べることもなかったし、連絡したいという気持ちも無くなっていた。
Kと会って5年は経っとったけど、その間にいろんなことがあって、
ワイのKへの気持ちが死んでしまったんやって理解した。

常識で考えるならKの抱える何某かの病気にワイは感化され、
一緒に妄想し、病んで、グダグダになっただけや。
でもワイは不可視の世界を受け入れると決めた。
それが自分の妄想やっていうんなら、妄想の中で生きると決めた。
Kが居なくなっても、ワイにとっての現実はここやって決めてもうたから、
今更すべてを妄想だとして正常ぶることはできんかった。

それでもたまに無性にKと話したくなる。
ワイの視ているものを、ワイの抱える妄想なんだか現実なんだか解らんものを、
共有してくれる人と話したくなるんや。
そんでワイの悪癖やねんけど、またKがSNSをやってるんちゃうかって調べたんや。
ほいたら、フェイスブックに居ったんよ。

そこには「父の別荘に遊びに来ました」と一言添えて、
元気そうなKの写真が載っていた。
不思議と、あんなに好きやと言うとった伴侶の気配も、家族の気配も無くて、
そこに写っているのは知らない人やと思った。
なのに、Kが使っている渾名はワイが贈った名前になっていて、
「お前につけたもんちゃうぞ、名乗るのやめぇや」って不愉快になった。

ワイがKと離れて5年、不可視の世界がどーたら言い始めて10年や。
周りの信用できる友人には話したりしたけど、きっと彼ら彼女らも
「こいつの頭はおかしいままやなぁ」て呆れとるやろね。
ワイも自分でそう思う。
せやけど、Kと見た大事な世界やから、憧れていた世界やから、
無かったことにしたくなかった。

それにな、不可視の存在が居なくなってしもーたら、ワイひとりぼっちや。
友達はみんな自分の居場所を見つけて歩き出した。
結婚した奴、子どもができた奴、自分の趣味に生きる奴と多種多様や。
そんな中にあって、ワイはKとのこと、K以外でも大打撃を受けて、
精神の均衡を崩したままや。
精神を安定させる薬を常用して、自力で寝られんくなってもうたから
睡眠導入剤が無いと寝つけへんようになってもうた。
ワイだけどうしようもない奴のままなんや。

Kが実は嘘八百を並べてワイのことを騙しておったとしても、
ワイは自分の現実に不可視の存在が居ると信じ続けると決めた。
そうやって自分だけの特別な世界を作って、そこに居ないと
自分を保てそうになかったからね。
でも周りに迷惑掛からんのやったら、妄想の中で生きていてもいいよな。
そう思うことにして、精神の安定を図っとるよ。

大事にしたいものはみんな居なくなってもうた。
昨日まで居た人が今日急に居なくなるのは、悲しいし寂しいよな。
ワイはKとのことがあってから、伝えたいことはすぐ伝えようと思った。
大事な人が明日も五体満足で生きていてくれる保障なんて、どこにもないからな。
居なくなってから後悔するくらいやったら、多少恥ずかしくても
本音を伝えてぶつかるべきや。
そういう関係を保てる人を見つけて、大事にするんやで。

ワイは死にたいけど、怖くて死ねなかった人間や。
妄想の中で生きれば他人に迷惑が掛からないと思っているけど、
ほんまはワイのこと受け入れてほしいって駄々こねとるんや。
そんなワイは面倒で醜いから早よ死ねよって、
内側のワイがいつも言うんや。死ねるもんなら死んどるわボケ。

これを読んでくれたあなた、今ある人間関係を大事にしてください。
ひとりで悩んでもロクなことは無いし、アウトプットて想像以上に大事なことやで。
そんで、ワイのこんな話を「おもろないネタやな」と思ってくれてもいいから、
どっかで覚えててください。
ワイは何も残せへん存在やけど、誰かにKとの話を知っておいてほしかった。
事実は小説より奇なりを地でいく馬鹿も居るんやなぁって、知っておいてほしかったんや。

今もまだ椎名林檎のキラーチューンは聴けない。Kを思い出すから。
Kから貰った洋服やアクセサリーも捨てられない。
でもここでおしまいやで。


ワイには大事にしたい人が何人かおったんよ。
でも、どう大事にしたらいいのかわからなくて、好きだからこそ他の人間に移っていってしまうのが悲しくて、いっぱい傷付けたんよ。
そのことを書き連ねて、誰かに見てほしくて、ネットの海に流すよ。

大学生の時、Kという人と知り合ったよ。相手はワイより5つばかり年上やった。
その当時に流行っていたSNSでメッセをくれたKは、不思議な雰囲気を持った人やった。
なんていうかな、浮世離れっていうのかな。今まで会ったことのないタイプの人やった。
音楽のイメージでいうと、クロノトリガーの「サラのテーマ」かな。
Kからメッセ来たらそれ鳴るようにしとったわ。

ワイはKに興味を持って、しばらくメッセでのやりとりを続けたんよ。
その時、なんとなくワイは「この人なら突飛な話も聞いてくれそうや」て思った。
いわゆるオカルトとかスピリチュアルとか、曖昧なジャンルね。
ワイは懐疑派でおるつもりやけど、幽霊とか神とか悪魔とかそういうモンは居ると思ってた。
けど、おいそれと人に話せることやないし、下手するとこっちが弾かれるんじゃないかって思ってたから、あんまり話せなかった。
ほんまは興味ある分野やから、誰かと話したかったんやね。

そんで、Kに言ったんよ。「幽霊とか信じる? そういう感じの体験してもうた」って。
それ自体は嘘ちゃうよ、ワイの現実では起こったことやから。
とはいえ、固有の現実で起きたことを説明するのは難しいってわかってたから、
否定されるかもしん、馬鹿にされるかもしれんって覚悟はしとった。

そいたらね、Kは「すごくよくわかる、身近な存在だから」て返してくれたんよ。
Kは日常的に不可視の存在を目にしていて、しかも幽霊とはまた違う次元のモノを
視るんやって言ってた。
ワイはそれを信じたよ。だって、ワイにそんな嘘を吐いたって、Kに得なことなんて、
なんもないやん。

それからKは自分のことをぽつぽつと話してくれるようになった。
生まれつき不可視のモノと接する家業に就いていて、
一族の男は次元の違うモンの器になり、女はその男達を慰める役を負っていること。
何代も続いてて、今は実姉が一族の長を担っていること。
Kはそんな家業が嫌だったのと、学生時代に好きだった人に裏切られたショックを抱えてて、
それらから逃げるようにして都会へと出てきたこと。
家業を嫌で出てきたけど、結局自分の持っている技術はそれしかないから、
都会に出ても尚、家業に類する仕事を請けていること、などなど。

そんで、Kは近縁の人と結婚してるし、子どももおるけど、
ワイのことを好きって言うてくれはった。
それがどういう好きやったかは、当時はよくわからんかってんな。
恋愛なのか友愛なのか親愛なのか、でもそのへんはどうでもよくて、
好きって言ってくれたのが嬉しかった。
この人の力になりたいって思ったんや。

ワイ、その時既に恋人がおってんけど、恋愛とも友愛とも違う、特別な関係ってのに
長いこと憧れていたから、Kの気持ちに応えたかった。
けれど、恋人は恋の心で好きやったし、友人に対しても愛情を持っていると自覚していて、
Kには特別な感情を持ち始めていた。
他人にこのことはあんまり話さんかったから、浮気やと言われればそうかもしれんね。

オカルトやスピリチュアルが好きな人って、精神薄弱なイメージがあってんけど、
Kもそんな感じやった。
雨が降る日は特に憂鬱みたいで、落ち込んだメッセが来ることが多かった気がする。
ワイは聞くことしかできんかってんけど、それでKが少しでも安らぐならって
ずっとメッセしてた。楽しかった。
ワイ、見えないものはいる、そういう世界があるって信じてたから、
Kの話す不可視のモノの話が楽しくてしょうがなかった。

ある日、Kから送られてきたメッセの中で、Kの口調が突然変わったんや。
なんやエラそーな、抑揚のない事務的な口調やったから、何か怒らせたんかなってビビった。
ほいたらね、話しかけてきたのはKの中に居る次元の違うモノやった。
仮に「主人」と呼ぼうか。主人は文字通り、Kの御主人様で、Kに力を貸しているらしい。
「人間は雑菌のようなものです、嫌いです」みたいなこと言われて、
あぁ~次元の違う存在ってほんまに「愚かな人間よ」みたいなこと言うんやって思いながら、
「同意です」て返したら、
「あなたは他の雑菌と少し違うようですね」言われたんや。
何も違うことなんてあれへん、ワイただ空想家なだけやわ。

その日から、Kの中に居る次元の違うモノが次々と話しかけてくるようになった。
主にやりとりがメッセやったから、文章に於ける口調の変化で
「あ、今この子やな」ってわかる感じ。
多重人格者とか、もし居たらこんな感じなんかなって思うた。
幼いボクっこのレンゲ、
陽気なおねーさんのマリア、
こんな感じで主に話すのはこの2人やった。

だいぶKや2人と打ち解けてきた頃、ワイはまた不思議な体験をしたんよ。
近所の林を散歩しとったら、誰かに見られているような感じがした。
人気の無い林で、近くに高速道路がはしっとる。その振動かなって思った。
辺りを見回したら、ワイと付かず離れずの距離で、白い人影がゆらゆらとしていた。
幽霊かな、妖怪かな、それとももっと悪いヤツかなって怖くなって、
ワイは気付かんフリして林を進み続けた。
そいつは一定の距離を空けてついてくる。ワイの背中を見ている気配がしてた。

林の横道に逸れて、小走りになった。そこはいつも立ち止まって木々をぼーっと眺める場所や。
白いヤツもこっちに向かってきた。どうなるんかわからんくて、怖い!って思った時、
白いヤツが寸前で止まった。何かに弾かれるみたいに進めなくなってて、
ワイの背後には黒髪の女の子がおったんよ。
勿論、現実におるわけじゃのーて、ワイに視えているって話ね。

その女の子はワイのことを守ってくれたらしい。
黒髪に白い肌、金色の目で、ワンピースみたいな服を着てる子で、セレネって名乗った。
ワイはセレネに御礼を言って、友達になったんよ。
見た目こそ、幽霊の定番みたいで最初は怖かってんけど、話しやすくて、
良い子なんやなって思ったんや。
同時に、自分は何をしているんだろう、気でもふれたんちゃうかって思わんくもなかったで。
でもな、気がふれたとしても楽しく過ごせるんやったら、それもいいんちゃうかって
開き直ったわ。

Kに、白いヤツに追われた話、セレネという子に助けられた話をしたら、
すっごい驚いていた。「その子を知っている」と言われたんや。
「自分と出会った時はちょっと違う名前だったけど、その子の気配は今も変わっていない。
恐らく自分が知っている存在だ」って言うんよ。
そんなこと信じられんかった。都合よすぎやろって、ちょっと疑った。
Kがセレネと知り合ったのは、Kの地元でのことや。ワイの地元とはめちゃ距離がある。
なのに同じようなものを視る、会うなんて、そんなん話盛ってるやろって。
なにより、Kは幅広い不可視の存在を視られるのに、幽霊すらも錯覚レベルのワイが、
同じように視られるなんてありえへんって思ったんや。

でもな、万が一同じものを視たのやとしたら、それはきっとすげぇことやって、
わくわくするワイもおったんや。
神も悪魔も精霊も竜も妖精も、ファンタジーの世界に繋がりそうなものは
存在していればいいなって、ずっと願っとった。
セレネは普通の幽霊やのーて、精霊の一種やと言われた。
それがほんまなら、ワイは精霊と友達になれたってことになる。嬉しかった。

それからワイはセレネの元に通い続けて、何か怖い気配がする度に守ってもらってた。
Kからは「まだ契約していなかったの?」なんて言われて、ワイはセレネと契約することになった。
ワイの持ち霊になってもらって、一蓮托生っていう契約や。
契約すると、曖昧だった存在がちゃんと一つの存在として確立できるんやって。
そうなれば、いつ消えるかわからないって心配せんでも良くなるし、
漫画やアニメよろしくお互いに助け合って生きることができるみたいやった。
もうシャーマンキングみたいな話で、ワイはますます嬉しくなった。

ただ、シャーマンキングでもそうやったけど、持ち霊にしたとして、そいつの力を
100%出そうと思ったら、宿主にそれだけの力が無いと引き出せんみたいやった。
ワイはただちょっと視えるだけの一般人や。媒体としての能力なんて無いし、
知識も浅いし、なんなら思い込みが激しいからそういう設定に酔っているだけかもしれん。
せやけど、Kは「君ならカンナギになれる」と言うてくれたんや。

かんなぎって何やねんって調べたら、巫女さんのことやってんな。
つまりワイは不可視の存在を癒すことができ、対話することができ、
Kや主人の力になれるってことやった。
そんなますます話ができすぎやろ~って否定したし、ワイがおかしくなってるんちゃうかって
自虐ネタまでKに披露してもうた。
ほいたら、主人に怒られたんよ。
「あなたが視えるのも力があるのも事実です。どうして否定するのか?
私達に肯定してほしいがために否定しているのか?」て強い語調やった。

確かに肯定してほしかった。だってイマイチ実感が無いんやもん。
空想家なだけが取り柄やのに、力があります、しかも闇と光を取り結ぶ存在ですって、
ゲームで言うたら「おぬしこそ勇者よ!」みたいな感じやろ。
ワイ、そんなすごい存在ちゃうねん。自分の小ささが嫌で空想しとるだけやってん。
人に自慢できるもんなんて何も無くて、自己評価も低いまま生きてきたから、
誰に肯定されたって到底信じられんかった。
素敵な友人がいようと、頼もしい恋人ができようと、
この孤独感は生涯抱えることになるってわかってたんや。

Kも、レンゲも、マリアもワイのことを肯定してくれた。
「主人に仕えるのだから、その名の下、全ての存在を見下していいんだよ」って。
「一度カンナギになったら、例え君から力が消えたとしても、カンナギのままだよ」って。
ワイ、そこまで口説かれたことなかってん。
ワイの代わりはどこにでもおるし、誰でもいいんやって思って生きてきてん。
せやから、K達の言葉がすごく嬉しくて、そこに自分の価値を見い出せるかもって思ったんよ。

仲間も少しずつ増えて、頭に声が届くことが多くなった。
空を見上げればなにがしかの気配を感じるようになって、
その答え合わせをKとして合っていたら嬉しかった。
ちょっとの偶然でも、自分の力でできたのかも?って思うだけで、
見え方が変わってくる。考え方が変わってくる。
元から人間怖いし、嫌いなヤツは断然人間に多かったけど、
少しだけ余裕を持てるようになってた。

そんな最中、レンゲとケンカしてもうたんや。
最近やけに不安定やなって心配してたんやけど、ワイがいらんこと言うてもうたら、
「君も僕を捨てるのか、人間はどうせ裏切る」みたいなこと言い出して、
まともにメッセでのやりとりができんようになってた。
少し時間が経ってから、Kから連絡が来た。
「レンゲは暴走してて、このままでは君に危害を加えそうだったから、
残念だけど消えてもらった」て言われて、ワイめちゃめちゃショックやった。
消すってことは、もう会えないってことや。
人間とちゃうから、一度消えたらそれっきり。転生とか何も無し。
レンゲはワイに懐いてくれていたから、その分だけ振り幅も大きかったんやと思うけど、
なにも消すことないやんって悲しくなった。
ワイのせいで消えてしもうたんやなって、悲しかったんよ。

それから数ヶ月経って、また新しい存在がKのなかに生まれた。
ヨルって名前のそいつは男の人格で、随分と紳士的なヤツやった。
ワイのとこの仲間も増えてきてたから、Kとその話で盛り上がってたんや。

一緒に仕事もしたんで。友人の家で怪奇現象が起きるらしいって話したら、
「君の友達ならいいよ」って言ってくれたんや。
いわゆる除霊とか浄化みたいな作業やってんけど、Kは金銭は受け取らなかった。
代わりに友人がお菓子を作ってくれてんけど、それを報酬として貰っとったよ。
作業内容は土地を守ってくれるモノを探して定着させるって感じ。

そんなこんなでKと会ってからだいぶ経ってたんやけど、ある日、Kともケンカしてもうた。
ちょっとした言い合いくらい、よくあることってワイは思っててんけど、
Kにとってはそうじゃなかった。
「私達の力が目当てで近付いたのか」とか、
「私はぬるま湯のようなものだ、不要になれば出ていけばいい」とか、
さんざん言われてもうた。やっぱり悲しくなった。

そこそこ時間が経った後にヨルから連絡を貰った時には、
Kそのものの人格が消えていた。新しいKがメッセを打ってきていて、
「君とは前に仲良くしていたって聞いたよ、僕とも仲良くしてね」って言われたんや。
ワイ、もう何をどう感じていいのかわからんかった。
初めてメッセをくれたKは、ワイのことを好きと言うてくれたKは、
世界のどこを探してももうおらんくなってしまったんやなって思うたら、
レンゲと会えなくなった時の感覚をもう一度味わったんよ。
何回味わったって、誰かと会えなくなるなんて慣れないわ。


続く
<< NEW     9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19     OLD >>
忍者ブログ [PR]
 Template:Stars