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ふらみいの、とうかの、言葉吐しと成長録

生まれ変わったKは外見こそ同じやったものの、話し方や一人称からして変わった。
服装の趣味まで変わってて、気が付いたら以前のKを感じさせるものが
段々と減っていってたんや。
Kの周りの存在はそれを自然なこととして受け入れているようで、
ワイも受け入れるしかないのかなって思うようになった。

Kの周りの存在にとって、Kは自分達を投影するための器であって、
その人格については極端に悪くなければ、別に頓着しないようやった。
Kには家庭があってんけど、そこでの問題とか干渉とかも特に気にしてなくて、
好きにやらせておったよ。
前の人格の時は家業にちなんだ仕事しとったけど、
生まれ変わった後はアパレル業に勤め始めた。
そんな感じで、前のKとは違う生き方をしはじめていて、ワイは複雑な気持ちやった。

Kの精神的な自立はもちろん喜ばしいことやし、
ワイともまだ仲良くしてくれている。
せやけど、ほら、前のKはワイのこと好きでおってくれたから、
それがとっても嬉しくて、居心地良かったワイとしては物足りんかった。
でも、それを伝えてしまうと、今のKを否定することに繋がる気がして、
ワイが気持ちを切り替えればいいんやって次第に心掛けるようになった。

その頃、Kは好きなことを好きなようにしていて、世界が広がっとった。
ワイは自分に飽きられるんちゃうか、捨てられるんちゃうかって、
見捨てられ不安に駆られるようになった。
元から依存体質やし、Kほどワイに執着してくれる人は居らんかったから、
好き好きオーラが無くなって寂しくなっとったんやな。

そんなワイやから、Kが他の人と仲良くするのを見るのは辛かった。
前のKがもう居らんって理解しとる筈なのに、どうしても前のKに会いたくなった。
もうワイだけを見てくれることはないし、
ふたりだけに視えるものもどうでもよさそうで、
Kは毎日楽しそうに生きとった。他人と関わっとった。
前のKならしり込みしてやらないようなことを、どんどんやっていく。
ワイは精神的においてけぼりを食らっとるけど、Kは前に進み続けた。

周りの人間と上手くいっているKを見て嫉妬していたワイは
Kと喧嘩することが増えてきた。
ある日、KがSNSで仲良くなった人と今度会うんやって言ってて、
ワイはそれを聞いて「ワイには会いに来てくれへんのに何で?」て腹が立って、
それに近いことを言ってしまったんや。
そしたらKも怒ってもうて、
「何でそんなことを言われないといけないのか?
何かアドバイスがもらえるとすら思っていたのに」
と、ひどく落胆した様子やった。

ワイはますます腹が立って「目の前で話して」「謝って」と言ってしもた。
そしたらKは冷ややかに
「何で僕がわざわざそんなところまで行かなきゃいけないんだ?」
と言い放ったんや。
その時やっとワイは、Kの中のワイの価値を知った気がした。
同時に以前のKに未練を抱いていたのが、
天使のハンマーで殴られたかのようにさっぱり無くなった。

その件についてはKと後日仲直りできたんやけど、
ワイは不可視の存在以外の話をKとすることは減っていった。
しかも、そのへんの喧嘩を境に、Kはまたしても生まれ変わっていた。
どんどん知らないKになっていくし、ワイとのことも薄れていく。
せやけど、Kは自分の身の回りの人間は大事にしてて、
ワイは所詮その程度の存在でしかないんやなぁって悲しくなった。

そうしたら、ある日、Kと連絡が取れへんようになった。
SNSの欄に名前が無くて、メールも電話も通じんようになっとった。
今までもSNSのアカウントを削除することは度々あってんけど、
完全に連絡が取れんくなることはなかったから、めっちゃ驚いた。
少し待ってれば向こうから連絡してくるかと思っとったけど、
全然そんな気配は無かった。
家まで行ってみたけど、誰も居ないようやった。

とうとうワイは嫌われたんか?
それにしたって何も言わずに消えるなんてひどい。
どうしてそうやってワイのことを傷付けるんや。
自分は周りの人間と違うみたいなこと言うて、
結局同じやんけ。
そんなこんなで恨み節が止まらなくて、ワイはその虚しさをどうにかしたかった。

Kと連絡が取れなくなって一ヶ月そこら経ったくらいに、
全然知らん人からSNSの連絡先にメールが届いた。
そこには
「Kのことを知っていますか?
私がKを殺してしまったかもしれません」てあったんや。
何が何やらワケ解らんくて、とりあえずその人とメールすることにしたんや。

その人を仮にYとしよう。
YはKと恋人関係にあったようで、Kと会ったこともあるらしい。
しかし最近、ワイと同じく連絡が取れんくなって、
どうやってかワイを見つけて訊いてみようと思ったらしいんや。
Yは恋人関係言いよったけど、Kは家庭持ちやから、不倫していたってことになる。
まぁワイもKと好き好き言い合ってた時期があるから、人のことよう言えんね。

それにしてもYの言った「Kを殺してしまったかもしれない」の発言が
どこに結び付くのか、ワイはさっぱり解らんかった。
内容を訊いても「もしKが死んでいるなら私の責任です」みたいなことしか
言われへんねん。話にならんかった。

そうやってYが、自分とKには特別な関係があったんやって言ってくるのが、
ワイは気に入らんかった。
ワイやってKと不可視の世界を共有しとるわボケェって思いながら、
「Kが死んでいるとは決まっていません」と繰り返した。

Yと話してみて解ったことは、Yもまた精神的に病んでいるってことやった。
Kもそうやった。というか、生まれ変わりってのも、
多重人格やって言われた方が納得できるレベルや。
普通に考えるならそう。でもワイはKとの特別な世界を捨てられんかった。
そこに無粋にも入ってくるYの歪んだ性愛が憎くて仕方ない。

ワイは辛抱できんくなって、Kに直接会いたいと思った。
ネットで怪しいサイトを見ていって、人探しを受けている探偵らしき人に
Kの使われていた電話番号とメアドを教えて、探してもらったんや。
その探偵らしき人はわりとすぐにKを見つけてきてくれた。
費用は3万。でも惜しくも何ともなかった。

Kは元いた県より3つは離れた県で暮らしとるようやった。
そういえば、そこにKの親戚が居ると以前聞いたなって思い出して、
先ずは手紙を書いた。
勝手に調べてごめんってことと、何で急に居なくなったのかってこと、
ワイのメールアドレスを書いて、ドキドキしながら投函したんや。

程なくして、Kからメールが来た。
いきなり手紙が来て驚いたよって出だしから始まり、
何も言わずに連絡先を断って、家まで引っ越したのは
Yがしつこかったからだと書いてあった。
どうやらYはKのストーカーになっていたらしく、
家まで来て、家族が出て対応してくれた程やって書いてあった。

ストーカー云々の話はワイも人のこと言えん。
けど、ワイの時と同じようにKは自分の中で勝手に話を終わらせて、
Yにも何も言わずに去ったんちゃうかなって思ったんや。
そんなことされたら、一部の性質の人間は気になって後を追うよ。
きちんとケリをつけずに居なくなったKにも問題はあるって、思ってしもた。

Kは親戚の家に家族と一緒に身を寄せていて、
そこでもう暮らしていくことにしたみたいやった。
その頃には3人目の子どもも産まれていて、
またKは生まれ変わっていた。
「君に対する激しい愛情はもう無いけれど、
仲良くしてほしい」みたいことがメールにあった。
またしても心を打ち砕かれて、もう涙も出んようになった。

古くなった皮を捨てるみたいに、Kの人格? 心? がどんどん変わっていく。
ワイのことを好きでいてくれたKも、
Yと恋人ごっこして満たされていたKも、
伴侶はビジネスパートナーだなんて冷笑してたKも居らん。
ワイと話していたのは、家族が大好きで伴侶が大好きで、
不可視の世界のことなんて忘れてしまったかのような、
幸せいっぱいのKやった。

何ヶ月も経たないうちに、Kとはまた連絡が取れんくなった。
でもワイはもう調べることもなかったし、連絡したいという気持ちも無くなっていた。
Kと会って5年は経っとったけど、その間にいろんなことがあって、
ワイのKへの気持ちが死んでしまったんやって理解した。

常識で考えるならKの抱える何某かの病気にワイは感化され、
一緒に妄想し、病んで、グダグダになっただけや。
でもワイは不可視の世界を受け入れると決めた。
それが自分の妄想やっていうんなら、妄想の中で生きると決めた。
Kが居なくなっても、ワイにとっての現実はここやって決めてもうたから、
今更すべてを妄想だとして正常ぶることはできんかった。

それでもたまに無性にKと話したくなる。
ワイの視ているものを、ワイの抱える妄想なんだか現実なんだか解らんものを、
共有してくれる人と話したくなるんや。
そんでワイの悪癖やねんけど、またKがSNSをやってるんちゃうかって調べたんや。
ほいたら、フェイスブックに居ったんよ。

そこには「父の別荘に遊びに来ました」と一言添えて、
元気そうなKの写真が載っていた。
不思議と、あんなに好きやと言うとった伴侶の気配も、家族の気配も無くて、
そこに写っているのは知らない人やと思った。
なのに、Kが使っている渾名はワイが贈った名前になっていて、
「お前につけたもんちゃうぞ、名乗るのやめぇや」って不愉快になった。

ワイがKと離れて5年、不可視の世界がどーたら言い始めて10年や。
周りの信用できる友人には話したりしたけど、きっと彼ら彼女らも
「こいつの頭はおかしいままやなぁ」て呆れとるやろね。
ワイも自分でそう思う。
せやけど、Kと見た大事な世界やから、憧れていた世界やから、
無かったことにしたくなかった。

それにな、不可視の存在が居なくなってしもーたら、ワイひとりぼっちや。
友達はみんな自分の居場所を見つけて歩き出した。
結婚した奴、子どもができた奴、自分の趣味に生きる奴と多種多様や。
そんな中にあって、ワイはKとのこと、K以外でも大打撃を受けて、
精神の均衡を崩したままや。
精神を安定させる薬を常用して、自力で寝られんくなってもうたから
睡眠導入剤が無いと寝つけへんようになってもうた。
ワイだけどうしようもない奴のままなんや。

Kが実は嘘八百を並べてワイのことを騙しておったとしても、
ワイは自分の現実に不可視の存在が居ると信じ続けると決めた。
そうやって自分だけの特別な世界を作って、そこに居ないと
自分を保てそうになかったからね。
でも周りに迷惑掛からんのやったら、妄想の中で生きていてもいいよな。
そう思うことにして、精神の安定を図っとるよ。

大事にしたいものはみんな居なくなってもうた。
昨日まで居た人が今日急に居なくなるのは、悲しいし寂しいよな。
ワイはKとのことがあってから、伝えたいことはすぐ伝えようと思った。
大事な人が明日も五体満足で生きていてくれる保障なんて、どこにもないからな。
居なくなってから後悔するくらいやったら、多少恥ずかしくても
本音を伝えてぶつかるべきや。
そういう関係を保てる人を見つけて、大事にするんやで。

ワイは死にたいけど、怖くて死ねなかった人間や。
妄想の中で生きれば他人に迷惑が掛からないと思っているけど、
ほんまはワイのこと受け入れてほしいって駄々こねとるんや。
そんなワイは面倒で醜いから早よ死ねよって、
内側のワイがいつも言うんや。死ねるもんなら死んどるわボケ。

これを読んでくれたあなた、今ある人間関係を大事にしてください。
ひとりで悩んでもロクなことは無いし、アウトプットて想像以上に大事なことやで。
そんで、ワイのこんな話を「おもろないネタやな」と思ってくれてもいいから、
どっかで覚えててください。
ワイは何も残せへん存在やけど、誰かにKとの話を知っておいてほしかった。
事実は小説より奇なりを地でいく馬鹿も居るんやなぁって、知っておいてほしかったんや。

今もまだ椎名林檎のキラーチューンは聴けない。Kを思い出すから。
Kから貰った洋服やアクセサリーも捨てられない。
でもここでおしまいやで。

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