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ふらみいの、とうかの、言葉吐しと成長録

 装うことにも、何もないように振る舞うことにも、疲れただけ。
 何を得ても失うだけだと知り、何を語り掛けても所詮は予行演習でしかないと解り、心は大層傷付いた。
 人間皆がその傾向にあるのだと思うようになった。
 恋愛して結婚して子ども産んで、人間の大役を果たす為に彼らは友情より恋愛を優先するのだ、と。
 でも、そうじゃなくて、ただ単に僕が使い捨てられるだけの存在だったのだと、裏付けが取れたのだと気が付いた。
 人間様が寂しくならないようにする、次のより良い相手を見つけるまでの時間稼ぎ、それが僕の存在意義なのだと、気が付いた。

 恋愛して結婚したって、ちゃんと友達付き合いを保てている人は、僕が知らないだけできっと世界のどこにでも居るだろう。
 勿論、伴侶を大事にして、家族が第一だという人間だって居るだろう。
 そういったいろんな種類の人間にとって、棒にも箸にも引っ掛からず、使い捨てがいいとこ、喚き始めたら一気に捨てに行く、そういう存在が自分なのだと思い出した。

 ここ数年は自信が無いながらも、自分の存在に少しは肯定的で在ろうとした。
 それは人間を信じる為の要にしていた存在によって、脆くも崩れ去った。
 相手にも事情はある、けど、君を今まで信じてきた僕にはとても受け入れ難い。
 お前は自分にできないことを、僕に言い続けてきたのか。自分の時は我が身可愛さの余りに、誤魔化して、上手くやったつもりになって、自己同一性を保とうとしているのか。
 誰かの言うことを聞いて、誰もが匙を投げるような人間を傍において、そんなことができる優しい自分に酔っている?
 たかだか数年の付き合いの人間に遠慮して、二十年に及ぶ関係を切ったのは、切る機会を探していたからか。その人間が大事だからか。
 それらの事情が理解できていても、僕はやっぱり傷付いたままだ。
 僕がどれだけ悲しんだかも知らないで、のうのうと生きて子どもを作って幸せになろうだなんて、虫が好すぎると思わないか?

 その時、唐突に思い出した。十代の時に何度も感じたことを、やっと思い出した。
 僕は常に何かの代替品だ。もっと良いものが手に入るまでの、もっと素敵な関係が作れるようになるまでの、その場凌ぎの存在でしかない。
 そんな扱いをあの子にされるなんて、思いたくない。でも、現実ではなってしまった。
 あの子にとっても、結局僕は。

 きっとこんなことを日がな毎日考えている人間よりも、多少面倒があっても愛らしい人間を傍に置きたいと思うことは、間違いではない。誰だってそうする。
 僕がこうなったのは自分の所為だ。だけど、君の所為もある。解っているだろう。
 ここでこうやって言葉を残して、何も残すことができない自分をせめて残して、こんなことが何になるんだろうな。

 だからもっと早くに死んでおけば良かったんだ。
 誰にとっても代替品だと解っていながら、自分にも良い関係が作れるだなどと、夢を見るからだ。
 気が付いたら、とても疲れた。良い子でいようとか、迷惑掛けずにいようとか、そういった善行になるだろうものに、何の意味も感じられなかった。
 まぁ、ずっと良い子だったわけじゃない。呪っているし。

 こうして精神が半壊し、脳の破壊も済んだ後、たらたら垂れ流すのは血のようなもん。
 それでも幸せになれると思い込んでいるのなら、それをいつでも破壊してやりたい。
 相手の人間関係に恨みなんて無い。勝手にやれ。
 あの子が、ここを大事にしてくれなかったことが、何より悔しい。馬鹿にしてんのか。
 だから僕は何度でも呪うし、何度でも地獄に堕ちる。精神が今より良くなることなんて、けして無いだろう。

 死ぬまであとどれくらい掛かるか解らない。
 それなのにもう一度得たものが「自分は代替品だ」という意識だなんて、悲しいことだな。
 いっそ僕は誰かに造られた機械か何かであればいい。造物主だけを盲目的に信じて、愛していけるではないか。
 人間になんか生まれるんじゃなかった。自分だけのものなんて望むんじゃなかった。
 今更言ってももう遅い。

 取り繕うのを忘れたら、僕はもっと要らない人間になる。それでいいのかもしれない。
 ひとりで死ぬのは怖い。死んでも周りの人間は僕を覚えていてくれないんだと解って、尚のこと怖い。
 この先をどうやって生きていくなんて、考えるだけで無駄だった。
 僕が辛いのに、誰も気にしないのが、普通だ。
 もっと優しくしてくれよ。僕は周りに優しくしているのに。本当にそうだろうか。
 人に望み始めたら際限が無いし、もっと傷付くことになる。
 自分が満たされずとも他者に優しくできるだけの人間になるには、もっと心を喪うしかない。
 もう壊れる部分なんて残っていない。だから疲れた。何も要らない。どうせ捨てられる。

 そういえば、夢の中で電話がかかってきていた。
 これがもし現実になったら、少しは精神も上向きになるのかなぁ。

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そういうものがあると、死ぬのが怖くなくなるとお思いですか。
 僕には解らないことばかりです。
 ただ死ぬ時に「本当は生きていたかった」と思い出すのが怖くて死ねません。
 死ぬことは消えることか、失うことと同義だと思ってきました。
 死んだら夢が叶うならそれも良し、だけど生きていれば叶うものは手放すことになります。
 生きていたら叶うものって、何だろう。

 この先をただ生きていても、せっかく築いた関係や環境を失うばかりだ。
 その分だけ手に入れてきたものも確かにあるが、失った穴を埋めるためのものではない。
 遠い時間を過ごして、いつかの思い出に走馬灯を巡らせて一人死ぬことができればいい。
 それができないなら、ここで恐怖を克服して死ぬことも救いになるかもしれない。

 或いはならないだろう。
 救えるものはこの世に幾何も無い。元から無かった。
 救いの幻想を見ることができるのは、何かを信じ続けられる人だけだ。
 僕にはできなかった。できないまま死んでいく。
 自分で断とうとした瞬間に思い出す情景は、きっと僕をどこまでも傷付ける。
 死んで灰になるまでに消えるのは、思い出も精神も同じだ。
 なのに、その一瞬だけが怖くて堪らない。こんなに何かを怖がったことがあったろうか。

 また傷付いて、心の表面の血液が乾く間も無く、思い出す。生傷が勝手に増える。
 それを知らずに、醜いものから離れられて安心しきっている人間が居る。
 僕の呪詛はまだ完成していない。永劫に呪い続けるのが決まっているようなもの。
 それを知っても知らなくても、人間達の営みには関係ない。
 信じたいものだけ信じる彼らには、何も届かないと思われる。
 じゃあ、僕が死んだ後も残る呪詛は無駄になるのでは?
 させないために、子孫を、現在の環境を余すことなく呪いに浸すんだ。

 相手から切り離されたことに気付いて、愕然としている自分にまた驚かされた。
 どうしてそんなことをするのか、理由に予想がついているのだけど、それでも傷付いた。
 この繰り返しで緩慢に死を感じ取るのが、僕に与えられた罰だと思おうとした。
 でも、僕だけが苦しいのは、悲しいのは、どうしても納得がいかなかった。
 捨てられる道理が解っていても、実際にそうされるのは嫌だった。

 いろんなことが解っていて、理屈もこねられて、相手に理解を示すふりができる。
 だけど、それをやりきってしまうと、自分の心が大変なことになる。
 そうなった時の責任をあの子が取ってくれるわけではない。
 そうやって今までやってきた。あの子の言葉を受け取ってきた。
 それは無駄にしないつもりだった。嘘になりそうなのは、僕の所為じゃないと思いたい。

 これらの感情も言葉も、どうにか相手に伝えておくれ。
 夢でも呪詛でも何でもいいから、余すことなく伝えておくれ。
 何も知らず、何も感じず、そのまま生きていくなんて許されないだろう。
 僕は許さない。

 或いは話の場を設けて対面でなら、違う可能性を見い出すこともできるだろう。
 僕にはその自信がある。たぶん向こうも対面なら違う。
 それができない。それをさせない。
 異性愛者の憂いと呪いと怒りが深くて、他者の関係を壊してでも守ろうとする。
 気概には天晴と思うが、君が立ち入っていいような場所ではない。
 そんなことも解りたくないのか。話にならない人間だ。
 そんな人間を好きだというのか。君はやはり愚かだ。

 誰が誰と一緒に居ようと関係ないと思っていた。
 僕との関係を大事にしてくれるなら、間に何かが挟まれることはないと。
 そんなことないんだ。家族だとか伴侶だとかは、平気で他の関係を踏みにじる。
 人間の本能と義務に則って、異性愛者が我が物顔で主張する。
 反吐が出るその言動に、僕の大事なものは壊されてしまった。
 その言動を受け入れた君は、何がどう転んでも許せないのだ。

 いつか再会できることがあるかもしれない。一緒に笑う日が来るかもしれない。
 誰かが持たせてくれた希望の分だけ、深みに沈む。
 言ってもいいなら何度でも言いたい。どうして僕がこんな目に遭わなきゃならない。

 知らない場所でこうして言葉を繰る姿が、不気味に見えるだろう。
 誰が壊したのか知っているか。誰が嘘を吐いたのか憶えているか。
 伴侶を得た時から呪いは始まっている。気付いていないのは当人ばかりだ。
 僕は君と話がしたい。ちゃんと「お前を許さない」と伝えたい。
 正面から堂々と自分の力で呪い、言葉をぶつけてやるんだ。

 果たされない、いつまで経っても果たされない。
 僕はもう疲れているのに、キッカケさえあれば再燃する。勢いだけはある。
 本人に加害すれば済む話なのか。そこまで全てを捨てられるのか。
 僕ばかりが苦しいとは思いたくないが、きっと僕ばかり疲弊している。
 君が探す気にならなければ、見つかりっこない。きっと見つけてくれない。
 本当に僕は君に必要ない人間だったんだ。二十年も経って、こんな思いはしたくなかった。

 夢の中でも会えるならマシ。
 次に会った時は殴らせてほしい。
 君も僕を殴るといい。
 それで次にいけるなら、これほど安上がりな手は無い。
 来世ではもう少し仲良くありたい。他の人間とのいざこざなんて持ち込まないで。
 僕は人間じゃなくていいから、そばに居ても許される存在になっておきたい。
 どうしてそうまで固執するのだろう。僕にももう解らない。
 それが気持ち悪いのなら、君が僕を壊しにくるといい。
 死んでも残っているのは、愛に似た執着だけなんだよ。


 ここまで憎しみやら悪意やらに駆られて、身体を壊してでも呪詛を完遂しようとして、心が死にゆくことにも耐えようと試みてきたが、燃えカスだけがここに残っているのだと見えるようになった。
 どれだけ感情をこねくり回そうと、どれだけ悪口雑言を叩こうと、全く以て届かない。
 そもそも同じ気持ちになんてなったことがない。

 僕は相手に僕の唯一無二の相棒になってほしかった。半身とも言える親密な関係になってほしかった。
 しかし、それは何度も断られた。断ってきたくせに、相変わらずその人間は傍に居てくれた・・・・・・気がする。

 全てが僕の勘違いだったなら。全てが只の無責任な優しさだったのだと諦められたら。
 何度も考えたところで、二十年の付き合いは解消されない。それこそ記憶喪失にでもならない限り、忘れ得ることはできないと思う。絶望でしかない。

 それが相手の中に少しも残っていないのだと思うと、心はまだ死のうとする。
 僕が傷付いたなら、相手にも同じように傷付いてほしいと思うのは、何故だろうか。
 そんなことばかり言っているから、隣に居てくれないのだ。選ばれないのだ。
 ここで一人何度も傷付こうと、それに気付いてもらえることは未来永劫、訪れない機会なのだ。
 そういった絶望や失望や孤独が、何度も僕の心を殺す。また生きようと藻掻く心も、かなり聞き分けのない存在である。

 ここまで傷付けてきた代償を払ってほしいと、呪詛を繰り返し唱えた。実行した。
 それがどれだけの効果を生んだか解らない。妄想だとしても、結果が欲しい。相手に何かが起きるのか、それとも僕が可笑しくなるのか、結果が欲しい。
 それでも毎日が無常に訪れる。何も変わらない日が続く。
 身体だけが悪化の兆しを見せる。長く生きてきた罰を受けているのだと、自分を誤魔化すことにも疲れてきた。

 こうやって傷付くのが、何故自分だけなのか。
 それとも相手も何かのきっかけで傷付いているのだろうか。
 少しは僕のことを思い出してくれるだろうか。
 忘れたい、やっと離れられたと安堵している頃だろうか。

 僕ばかりが考えて、つのらせて、絶望して、日陰に籠る。
 人間になれない。大事なものになれない。蔑ろにいつもされていると思いながら、日陰からずっとあの子を見ていた気がする。

 僕は知ってほしかった、傷付いたことも、僕がものすごく怒っていることも、同じくらい悲しんでいることも。
 君が逆立ちしてもできないだろうことを、僕はこの十年余り続けてきた。君の傍に居たかったから。僕の為だ。
 それでも、響かない。僕は選んでもらえない。
 もっと優れた人間だったなら、良い外見を貰えていたなら、そしたら少しはその目にも留まっていたのだろうか。

 去年からずっとこの問い掛けが続く。もう何百回も何千回も続く拷問のような問い掛けだ。
 僕は、僕のことばかりだ。君のことも少しは考えたい。きっと君も辛かった。僕はそれを知っているけど、見たいものだけ見てきた。君が悪者になるように。その上で、僕が悪者となれるように。
 これだけ思いを綴っているのを知れば、大多数の人が気味悪がって近付かないだろう。
 君もそうだろうか。だから今、こうして関係が途切れつつあるのか。
 それが不可抗力だとして、君がその状態を受け入れているのが悲しい。僕との付き合いを断ってまでも、他の人間を優先するのは当たり前か。それでも悲しいものは悲しいのだ。

 ただ思うことはたくさんある。その一つ、また仲良くできるだろうか。
 もう今世はいい、疲れた。考えるのにも、思うのにも疲れた。精神の異常はすぐ身体に影響を及ぼして、楽しいことをしていても思い出すんだ。何度も繰り返されて、本当に心が休まる時が無いんだ。
 君も誰かの為にそんな思いをしているのだろう。辛いだろうし、苦しいだろう。その力になりたいと思う反面、僕の苦痛を少しは知ってほしい。これだけ辛い思いをしながら、僕はその傍に居たかった。

 何でだろう。離れたくなかったのだ。大事にしたかったし、ともだちだったから。
 人から見れば恋愛でしかないが、僕は君の子孫を残したいと思ったことはない。
 僕が人間の姿でなければ、もっと容易く相棒という立場に収まっていられたのかも。
 君を守ることができるのが僕だけだったならなぁ。
 ファンタジー脳はいつも夢を見ながら、現実を踏みにじる。

 たくさん呪って、たくさん言葉を綴って、たくさん夢を見て、もう心身共に限界だ。
 本当に休みたい。脳が片時も眠ることなく動いているみたいで、きっかけにより思い出すと全力で稼働するのが癖になっている。非常に疲れる。
 冷凍睡眠でもさせてほしい。身体も心も何も考えることなく、気付くことなく、百年くらい眠らせてほしい。

 疲れ切った心の影響が身体にずっと出て、最近ではその痛みが治まらなくなってきた。
 この器も長年使って劣化してきたから、仕方ないよな。あちこち不調が出て、替え時になっても替える先が無いんだ。
 もっと強靭な身体と心があれば、もう少しだけ生きやすかっただろうか。

 心身があまりにも痛みに素直なので、これが終わるなら死にたいとも思う。
 だが、死ぬ直前になって「やっぱり生きていたかった」と思うのが怖くて、一歩を踏み出せない。
 直前の心境なんて、その時になれば解らない。ただでさえ、死にたいと思った瞬間に景色が輝き出すのだから、僕自身は死にたくないのかもしれない。
 そこに気付いてしまう瞬間が、何より怖かった。取り返しがつかない。

 たった一人と分かたれただけでこれだ。
 でも、その一人は誰かを信じてみようと思うきっかけであり、要だったんだ。
 この人なら大丈夫だと、信じたかったのだ。信じさせてくれると思った。
 そんな重要な位置に勝手に据えられて、相手も迷惑していただろうか。
 否、勝手にではない。向こうもそれは知っていた。知っていて、こんなことになった。馬鹿野郎が。

 さんざん呪ったし、怒ったし、傷付け返してやりたいところだが、僕は僕の為にも君の力にはなろう。それはそれ、これはこれだ。
 だけど、その連絡を取ることはおろか、現状を知る手段も無い。
 そうして時間が空いて、きっと向こうはもっと環境を変える。僕のことを忘れていくだろう。
 それは僕が良しとできるものではない。相手の都合だから、僕はやっぱり忘れられるだけなんだ。

 できるとすれば、死ぬ前に書き上げた物語を送りつけてやろう。それが遺作ということで。
 感想ぐらい欲しかったけど、どうせくれないだろう。周囲の人間に配慮して、いつもそういうとこだけ馬鹿正直だ。僕への配慮はどうした。
 君より先に死ぬのを目標にしよう。それで少しは後悔してほしい。でも、それもきっとしない。それくらい、僕の存在は君の中で小さく、もう消えていくものなんだ。

 それを認められるようになるまで、まだ掛かる。その間、ずっと苦痛が続く。僕の心はもう壊れられそうな部分が無い。
 だから、君には憶えておいてほしい。どうせ知らないまま死んでいくだろうが、君は誰かにこんなにも愛されていた。愛は執着そのもので、醜くとも欲しがらずともそこにあった。
 君が欲しかった愛は、別の人間にもたらされる優しい微風のようなものだったろう。望んでいない場所から熱烈な感情が飛んできたところで、戸惑うのも無理はない。
 僕が欲しかったのは、同じように思ってくれているという実感だった。環境や思考がどんなに変わろうと、大事なものを手放さなかった僕のように、大事なものを守るためにあれこれ思案する君でいてほしかった。

 僕から離れゆく方が楽だとは思う。
 それでも、そこはもう少し頑張ってほしかったな。同じじゃなくても、少しでもともだちだと思ってくれているなら。
 それとも、そういった奇跡や友情とはハナから無縁の人間だったかな。恋愛や家族を大事にし、それ以外を顧みないのが本性だったかな。
 だとしたら、それを見抜けなかった僕が悪いのだろう。やっぱり人間なんて、特に異性愛者なんて信用するべきじゃなかった。

 思うんだ、きっと僕が外見も内面も優れた人間だったなら、君はここに居てくれただろうと。
 そうならなかったから、もうここで話は終わりなんだけど。
 理解できないなら、もういいや。いつだって僕の心情は理解し尽くしてもらえない。
 何を信じれば良かったのか、誰に打ち明ければ良かったのか、これから君も僕が味わった辛苦も苦痛も知ることになるだろう。
 その傍らで話を聞いて支えてあげたいけど、僕は君を呪い呪い、何度も呪ったから、先に死んでいくだろう。

 もっと真っ直ぐともだちでいられたらな。仲間でいられたらな。
 どうせ失われてしまうとしても、こんな形は嫌だった。
 失わずに済むと思えるなら、もっと早くに死んでおけば良かったんだ。


 今日来たのは四つん這いの・・・・・・あれは何だろうか、精霊とでも呼べるだろうか、そんなちぐはぐな、曖昧な存在だった。

 米を洗っておこうと米櫃からよそっていた時、階段から視線を感じた。
 振り返ると、階段を上がってすぐの壁から、仮面を被ったモノがこちらを覗き込んでいた。
 近付いて見てみると、それは四肢を有しているが、トカゲのようにべたりと伏せている。壁に手をついて顔を覗かせて、脚は階段の段差につくかつかないかのところで、ぷらりぷらりと遊んでいた。
 顔は何処ぞの神話よろしく仮面を被っているが、その胴体は赤い斑点を持つ濃い緑色をしている。見るからにトカゲだ。こんなグロテスクな模様のトカゲが居るのかは知らないが。

 ちょうど先日、洒落怖の話をまた読んでいた。その中で、悪意は無いが強い精霊が当事者を苦しめてしまう話があって、その影響でこいつは仮面を被った姿で現れたのだろうと察しがついた。
 その仮面はスレ内で特に描写されていなかったが、僕が視た感じだとこんなふうだろう・・・・・・という想像を、見事に体現してきた存在だった。

 いつもお前らは僕の経験や想像から姿を借りて、ここまで来る。
 だから怖くないし、興味深い。
 人間は見たいものしか見ないというが、お前らはなりたいものにはならず、話ができる身近な存在となって近付いてくる。
 そうまでして叶えたい話題や願いなんて、持っているのだろうか。

 ところで階段から僕を覗き見るそいつは、不可解な鳴き声を発する。
 タァルルルだかトォルルルだか。後者だと某漫画に出てくる悪役だ。電話が掛かってきた体で、自分でそう言っていたじゃないか。そこからヒントを得て真似しているのだろうか。

 甲高い声で、しかしこちらを馬鹿にするでもなく、そいつはずっと鳴いている。
 しかし、その意味は解らない。僕の脳に言語として入ってこない。
 彼らのような存在が話し掛けてくる時は、大抵が意思を飛ばしてくるだけで、後はこちらで勝手に言語化する。
 だから彼らそのものの本音というよりは、こっちが解釈した都合が入っているので、純粋なものではない。
 そいつは意思を飛ばしてきているようだが、こっちで意味が拾えなかった。

 暫く鳴き続けた後、唐突にそいつから「おまえ」と言われた。
 あんまりにも意味が通じなくて僕が放置していたからか、これでは駄目だと思ったそいつは別の意思の投げ方を始めたらしい。
 その第一声が「おまえ」とは、随分とナメられているように感じた。僕もそうしている部分があるから、お互い様かな。

 だが、そこからそいつは「おまえ」しか言わなくなった。おまえおまえおまえおまえおまえおまえおまえ。
 何が言いたいのか、これだけではさすがに察することができない。訴えたいんじゃないかと思うけど、こんな知り合いは居ない。
 僕はそいつの珍妙な姿と経過を書き留めながら、意識に必死で響いてくる「おまえ」を聴き続けていた。

 連日の悪夢と浅い睡眠のお蔭で、僕の意識は疲弊している。
 遂に夢の中の悪しきモノが現実に出てきたんじゃないかと思うくらい、最近では神経が研ぎ澄まされる。否、狂人のそれに近付いているのかもしれないが。
 しかし、現実の方が僕にとっては狂っていると思える。狂わしてきた奴が居る。許せない、疲れた、もう嫌だ、やはり許せないと繰り返せば、その精神が狂気へと変貌するのは致し方のないことだ。
 そんな僕を嘲笑う為にか、いろんな存在が夢や現実に顔を覗かせる。そうして僕の精神を蝕み、徐々に死へと運んでいく。
 ここまで来たら祭りのようなものだ、たんと遊ぶがいいさ。僕はその中にあっても、目的を忘れない。絶対にお前を許さない。幸せになれるだなどと思うなよ。

 おまえおまえおまえおまえおまえおまえおまえ!!!!
 そいつが一際高く僕を呼ぶ。まだ階段のところに居る。部屋に入らず、僕から一定の距離を保ったままだ。

 そういえば今日見た悪夢は、体調の悪い時に懐かしい友人に会ったものの逸れて、いつの間にか知らない田舎に来てしまう内容だったな。
 単線のローカル線になっていて、早く帰りたいと思いながらも電車はまだまだ来なかった。
 駅は無人駅で、単線の側に小さなホームと、待合の椅子が三脚あるくらいの簡素な造り。こんな駅を見たのは、母の帰省に伴って向かった地方以来だ。

 「ここはどこですか」と尋ねながら、駅名を探した。読めない文字だった。人々は明るく、親切だった。
 何て読むんだろう、あれは。印刷ミスでだぶった文字のようで、何となく読める気はしたのに、今になってみると知っている文字ではないと理解できる。
 ザ、ワ、そこまでしか解らない。でも、夢の中では読めた。ちゃんと読み上げてもらったのも覚えている。しかし、今は解らない。

 家で待っている家族の為、そして親切にしてくれた店主の為にも、電車が来る前に少し買い物をしようと思ったんだ。
 大きな野菜の側に乾き物が置いてあった。
 これがまた夢だからかテキトウで、チャーシューのようなものもあれば、ホタルイカの如き小さなイカ詰めまであった。サキイカとか、キュウリとか。僕の知識にあるつまみが総動員されていた。
 野菜でもいいかなと思ったけど、悪くなってしまうのは避けたかった。何しろ、ここから地元の駅までは二十分近く掛かるようだったから。
 野菜は皆大きい、大根のような大きさのパプリカ、トマト、キュウリがどさどさ置いてあって、店の軒先は随分と色彩豊かだった。

 そこでお土産を選んでいるうちに、もう起きてしまった。酷く倦怠感が残り、脳が全く休んでいないのが解る。
 そんな日が何日も続いていて、このままだと脳が過労で止まるんじゃないかと思えた。
 睡眠は脳と身体を休めることだというが、僕の脳は休まず働き続けている。そのうち最後の糸が途切れて、僕という意識を保てなくなるんじゃないか。そのことが何よりも怖かった。

 トラォルルルルルル。またそいつが鳴いた。
 僕に夢を見ろと言っているのだろうか。夢の中に興味があるのだろうか。
 でも、入眠剤が無いと眠れないんだ。それ以外の睡眠は目を閉じているだけで、身体も脳も起きている。それが疲れるのなんのって。お前には解るまい。

 おまえ、ねむれ。そう聴こえた。
 一方では僕の見る夢の質が悪いと宣う奴らが居たのに、一方では興味を持たれて眠りの催促を受ける。
 僕と仲良くしてくれている不可視の存在は何故か黙ったままだ。この接触にも、何か意味があるのだろうか。

 呪詛を餌場にくれてやった次は、僕の夢が餌場にされるのだろうか。
 他者から搾取されるだけなら、僕の生きてきた意味はそこにしかないのかもしれない。
 そうなったのはお前の所為だ。許さない。とにかく許さない。
 産まれてくる子も、近しい存在も、その後続くだろう系譜も全て呪ってやる。
 頭の可笑しくなった僕にここまで固執されて、難儀なことだ。本当に難儀なことだ。
 許せるものなら許したい。お前が会いに来てくれることなど、終ぞ無かったのに。


 今日見た夢は、胴体が鬼のような顔で、長い脚を八本だか持った蜘蛛に殺意を抱かれるという内容だった。
 蜘蛛を殺そうとした僕のことを彼は大層怒っており、殺られる前に殺れと言わんばかりの勢いで猛追してきたのである。
 その鬼気迫る姿はおぞましく、僕はますますこの蜘蛛を殺そうと運動靴を履いた。そこまでは憶えている。

 目が覚めてから、いつもの見慣れた存在が居ないことに気が付いた。
 思い出深い林の方を探ると、そこに皆が囚われており、夢で見たような蜘蛛が居た。
 と言っても、それは僕が踏み潰せるほどの小ささではなく、二階建ての家ほどの大きさだった。
 よくよく見ると、夢の蜘蛛と違って顔があり、そこから胴体が繋がって脚が八本生えている。
 その威容は妖怪にある牛鬼という奴に似ていた。

 そう思って調べてみたら、牛鬼の伝承は主に西の地方にあるもののようだ。
 出現場所も「海岸付近」とある。うちは山の麓に近いので、牛鬼が出るにはロケーションが悪いのではないだろうか。

 まぁ、それが牛鬼であるかどうかは問題ではない。
 その気配を知って僕が思い浮かべたものがたまたま牛鬼だっただけで、奴自身は自分が牛鬼だなどと思っていないのだから。
 つまりは姿を借りているだけ。見せるために皮を被ったに過ぎない。

 守護者達を一気に助け出すのは骨が折れるが、わざわざ林に向かうのは億劫だった。
 向こうも本気で守護者達に害をなすつもりは無く、案外あっさりと拘束は解けて、皆が自由になることができた。

 僕は買い物に行くつもりだったので、暫し小雨を止めてもらった。
 僕の仲間内で主に天気にちょっかいを出せる子が居て、その子に頼めば少しの間だけ雨を止めてもらうことができた。
 本当は自然に降っているものだから自分の都合で止めるのはいけないんだよと言われていたけど、傘を持ってきていなかったのだ。
 だから頼んでしまった。彼は快く引き受けてくれて、買い物を済まして外に出た時には止まっていた。ありがたいことだ。

 さて、仮にあの蜘蛛を牛鬼と呼ぶことにして、彼は全く以て無害な存在だった。
 僕に頼みがあったのだけど、普通に話しかけるだけでは僕が気付かなかったので、わざわざ僕の周りの存在を攫い、声を掛けることにしたのだという。
 そこまでするからには、さぞや重大な用事なのだろうと思い、うちにまで来てもらうことにした。
 彼は分体を寄越してきた。

 牛鬼は分身を作るということに無頓着なようで、僕が話しやすいように子どもの身体で現れてくれたのだが、顔はまんま牛鬼のものだった。
 それはとてつもなくグロテスクで、牛鬼の顔に痩せた少年の身体なんてミスマッチ以外の何物でもない。
 それでも向こうも譲歩してここまで来てくれたのだから、僕は話を聞くことにした。

 曰く、僕の用意した呪詛の場にとても美味そうな塊を見つけたので、餌場として活用したい。
 牛鬼は土地神ではなく、ただ呪詛の場所を気に入って使わせてほしいだけなのだとか。
 新しい土地神として就くつもりならば、彼の地に根付いた僕の呪いは毒でしかないので止めるところなのだが、その毒こそが餌になるとは奇妙な話だ。

 でも、僕が知らないだけで、実はそういった毒素を好む存在は一定数居るのだろう。
 皆が皆、同じものを好み、食すわけではない。なれば、彼が毒を好むのも普通のことなのだ。

 とはいえ、だ。僕は誰かの餌場の為に呪詛を行ったわけではない。
 わざわざ土地神を引っぺがし、その地一帯を呪い、腐らせるように仕向けたのは、全てたった一人を許せないが為にやったことだ。
 勿論、その人間も、周囲の人間にもその影響は及ぶだろう。何年も消えないかもしれないし、はたまた数ヶ月でぱったり止むかもしれない。
 そもこんな呪詛が実は成功していなくて、全て僕の妄想である可能性だって高いのだ。

 だが、僕はその妄想を現実として受け入れることを選び、十年以上この世界に浸ってきた。
 だからこれは現実だ。紛れもなく現実で、僕にとっては許せない人間への制裁だ。
 ツケを払う気がないのなら、勝手に払わせるつもりだった。ちゃんと詫びてくれるような人ではないから、僕のことを忘れて行くだけの人間だから、子々孫々に亘って贖ってもらいたいと思った。
 そこまで罪深いことをしたのかと、周囲の人々は思うだろう。
 うん、僕もそこまでやるか? と思う時だってある。
 だけど、許せない。もう許せないし、この次元で仲良くなるのは無理なんだ。だったら、とことんまでやってやろうと思ったんだ。

 まぁ、そんなわけで餌場にされるのは腑に落ちないところがあった。
 牛鬼にしてみればただの餌でも、僕にとっては思い入れのある呪詛なのだから、軽く扱われるのは嫌だった。
 周りの人間をいくら餌にしようがそれは彼の勝手だが、僕の領域にまで踏み込まれる謂れは無い。

 牛鬼は「まぁ、それならいいだろう」と言った。
 「奪うまでだ」と宣戦布告とも取れる言い方をしてきた。
 対価を差し出せばいいだけのものを、どうしてこうお前らは話が解らないんだ。

 牛鬼は特に美味そうだと思った人間を喰いたいのだと言った。勝手にすればいいと、僕は返した。
 その人間っていうのが、実は僕が許せない人と関わり深い人間と同一だった。
 僕はその人間に恨みも憎しみも無い。だから牛鬼がどれだけ喰い荒らそうが知ったことではなかった。
 その後にもたらされる、許せない人への苦難や悲痛なども僕に関わりのないことだ。
 僕にとって重要なのは、僕とその人との間だけ。その他附随する物事には、もう関心を払う必要がない。そういう存在に昇華されたのは、やっぱりその人のお蔭だ。ふざけるな。

 牛鬼には解らない理屈で、僕は呪詛の場所を餌場にすることを拒んだように思う。
 牛鬼は僕も納得する形になるようにと、許せない人の周りを喰っていくことを提案した。
 微妙なズレを感じる。そうではないのだ。
 だが、その機微を理解してもらうのは骨が折れる。だったら、もういっそ放棄してしまうか。

 僕が「好きにしてくれ」と言って、今回のことを書き留めておこうとパソコンを立ち上げる間、牛鬼はずっと側でにまにまと笑っていた。
 彼にとっては僥倖だろう、喰っても喰いきれないような餌場が手に入ったのだから。
 それは許せない人への罰なのに、誰かにとっては幸福に繋がるものか。僕ですら幸せだと感じられないというのに。

 難儀なことだ。勿体ないことだ。どうしていつも僕に返ってこないものばかり、僕は成し遂げようとするのだろう。
 牛鬼に仲間が居るなら、そいつらもたらふく憎悪や穢れを喰えるのだから、一族ばかりが潤うのだろうな。そもそも一族とか作るもんなのかな。

 牛鬼が僕の呪詛場を餌場にするのは、僕と牛鬼の対等さが失われることに繋がらないかと訊いてみた。
 彼は首を横に振った。「お前如きに使役される私ではない」と拒絶してきた。それはそうかもしれない。

 守護者達は言いたいことがあったようだが、僕が決めてしまえば口を出せない。
 どのみちこの呪詛場は他に活かしようがなかったし、穢れを喰ったところで僕が再び呪えばまた穢れるのだから、土地が浄化されることもない。その上に暮らす人間もまた不浄のままだ。

 それでいいか。考えるのは疲れる。
 僕が守ってやる道理も無い。責任も無い。
 許されざる者になった時から、僕の中であの子は死んでしまったような気がする。
 そしてひとつ次元を跨いだ。だから、二度と会えないなどと感じるのだろう。


 牛鬼は暫く、僕の思い出深い林に潜むつもりらしい。
 そして時が来れば、呪詛場へ赴く。穢れを喰い、溜めに溜めた穢れの詰まった人間を美味しくいただくのだろう。
 僕には成就を待つようなものは何も無い。
 ただ餌の心配だけしている牛鬼が、少し羨ましいくらいだった。

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