ふらみいの、とうかの、言葉吐しと成長録
今日来たのは四つん這いの・・・・・・あれは何だろうか、精霊とでも呼べるだろうか、そんなちぐはぐな、曖昧な存在だった。
米を洗っておこうと米櫃からよそっていた時、階段から視線を感じた。
振り返ると、階段を上がってすぐの壁から、仮面を被ったモノがこちらを覗き込んでいた。
近付いて見てみると、それは四肢を有しているが、トカゲのようにべたりと伏せている。壁に手をついて顔を覗かせて、脚は階段の段差につくかつかないかのところで、ぷらりぷらりと遊んでいた。
顔は何処ぞの神話よろしく仮面を被っているが、その胴体は赤い斑点を持つ濃い緑色をしている。見るからにトカゲだ。こんなグロテスクな模様のトカゲが居るのかは知らないが。
ちょうど先日、洒落怖の話をまた読んでいた。その中で、悪意は無いが強い精霊が当事者を苦しめてしまう話があって、その影響でこいつは仮面を被った姿で現れたのだろうと察しがついた。
その仮面はスレ内で特に描写されていなかったが、僕が視た感じだとこんなふうだろう・・・・・・という想像を、見事に体現してきた存在だった。
いつもお前らは僕の経験や想像から姿を借りて、ここまで来る。
だから怖くないし、興味深い。
人間は見たいものしか見ないというが、お前らはなりたいものにはならず、話ができる身近な存在となって近付いてくる。
そうまでして叶えたい話題や願いなんて、持っているのだろうか。
ところで階段から僕を覗き見るそいつは、不可解な鳴き声を発する。
タァルルルだかトォルルルだか。後者だと某漫画に出てくる悪役だ。電話が掛かってきた体で、自分でそう言っていたじゃないか。そこからヒントを得て真似しているのだろうか。
甲高い声で、しかしこちらを馬鹿にするでもなく、そいつはずっと鳴いている。
しかし、その意味は解らない。僕の脳に言語として入ってこない。
彼らのような存在が話し掛けてくる時は、大抵が意思を飛ばしてくるだけで、後はこちらで勝手に言語化する。
だから彼らそのものの本音というよりは、こっちが解釈した都合が入っているので、純粋なものではない。
そいつは意思を飛ばしてきているようだが、こっちで意味が拾えなかった。
暫く鳴き続けた後、唐突にそいつから「おまえ」と言われた。
あんまりにも意味が通じなくて僕が放置していたからか、これでは駄目だと思ったそいつは別の意思の投げ方を始めたらしい。
その第一声が「おまえ」とは、随分とナメられているように感じた。僕もそうしている部分があるから、お互い様かな。
だが、そこからそいつは「おまえ」しか言わなくなった。おまえおまえおまえおまえおまえおまえおまえ。
何が言いたいのか、これだけではさすがに察することができない。訴えたいんじゃないかと思うけど、こんな知り合いは居ない。
僕はそいつの珍妙な姿と経過を書き留めながら、意識に必死で響いてくる「おまえ」を聴き続けていた。
連日の悪夢と浅い睡眠のお蔭で、僕の意識は疲弊している。
遂に夢の中の悪しきモノが現実に出てきたんじゃないかと思うくらい、最近では神経が研ぎ澄まされる。否、狂人のそれに近付いているのかもしれないが。
しかし、現実の方が僕にとっては狂っていると思える。狂わしてきた奴が居る。許せない、疲れた、もう嫌だ、やはり許せないと繰り返せば、その精神が狂気へと変貌するのは致し方のないことだ。
そんな僕を嘲笑う為にか、いろんな存在が夢や現実に顔を覗かせる。そうして僕の精神を蝕み、徐々に死へと運んでいく。
ここまで来たら祭りのようなものだ、たんと遊ぶがいいさ。僕はその中にあっても、目的を忘れない。絶対にお前を許さない。幸せになれるだなどと思うなよ。
おまえおまえおまえおまえおまえおまえおまえ!!!!
そいつが一際高く僕を呼ぶ。まだ階段のところに居る。部屋に入らず、僕から一定の距離を保ったままだ。
そういえば今日見た悪夢は、体調の悪い時に懐かしい友人に会ったものの逸れて、いつの間にか知らない田舎に来てしまう内容だったな。
単線のローカル線になっていて、早く帰りたいと思いながらも電車はまだまだ来なかった。
駅は無人駅で、単線の側に小さなホームと、待合の椅子が三脚あるくらいの簡素な造り。こんな駅を見たのは、母の帰省に伴って向かった地方以来だ。
「ここはどこですか」と尋ねながら、駅名を探した。読めない文字だった。人々は明るく、親切だった。
何て読むんだろう、あれは。印刷ミスでだぶった文字のようで、何となく読める気はしたのに、今になってみると知っている文字ではないと理解できる。
ザ、ワ、そこまでしか解らない。でも、夢の中では読めた。ちゃんと読み上げてもらったのも覚えている。しかし、今は解らない。
家で待っている家族の為、そして親切にしてくれた店主の為にも、電車が来る前に少し買い物をしようと思ったんだ。
大きな野菜の側に乾き物が置いてあった。
これがまた夢だからかテキトウで、チャーシューのようなものもあれば、ホタルイカの如き小さなイカ詰めまであった。サキイカとか、キュウリとか。僕の知識にあるつまみが総動員されていた。
野菜でもいいかなと思ったけど、悪くなってしまうのは避けたかった。何しろ、ここから地元の駅までは二十分近く掛かるようだったから。
野菜は皆大きい、大根のような大きさのパプリカ、トマト、キュウリがどさどさ置いてあって、店の軒先は随分と色彩豊かだった。
そこでお土産を選んでいるうちに、もう起きてしまった。酷く倦怠感が残り、脳が全く休んでいないのが解る。
そんな日が何日も続いていて、このままだと脳が過労で止まるんじゃないかと思えた。
睡眠は脳と身体を休めることだというが、僕の脳は休まず働き続けている。そのうち最後の糸が途切れて、僕という意識を保てなくなるんじゃないか。そのことが何よりも怖かった。
トラォルルルルルル。またそいつが鳴いた。
僕に夢を見ろと言っているのだろうか。夢の中に興味があるのだろうか。
でも、入眠剤が無いと眠れないんだ。それ以外の睡眠は目を閉じているだけで、身体も脳も起きている。それが疲れるのなんのって。お前には解るまい。
おまえ、ねむれ。そう聴こえた。
一方では僕の見る夢の質が悪いと宣う奴らが居たのに、一方では興味を持たれて眠りの催促を受ける。
僕と仲良くしてくれている不可視の存在は何故か黙ったままだ。この接触にも、何か意味があるのだろうか。
呪詛を餌場にくれてやった次は、僕の夢が餌場にされるのだろうか。
他者から搾取されるだけなら、僕の生きてきた意味はそこにしかないのかもしれない。
そうなったのはお前の所為だ。許さない。とにかく許さない。
産まれてくる子も、近しい存在も、その後続くだろう系譜も全て呪ってやる。
頭の可笑しくなった僕にここまで固執されて、難儀なことだ。本当に難儀なことだ。
許せるものなら許したい。お前が会いに来てくれることなど、終ぞ無かったのに。
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