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ふらみいの、とうかの、言葉吐しと成長録

何だって変わるものだ。
生活も、仕事も、交友関係も変わった。
心持ちも、病状も、嗜好もそれなりに変わった。
それでも死ぬまで抱えていく罰はずっと変わらない。変わっちゃいけない。
何年もその様に考えて戒めてきた。

10年前の自分は、果たして想像できたろうか?
罪人だと自分を責めたて、一縷の望みを懸けた人間に全て捧げようとし、またしても仕事を変えたあの頃が懐かしい。

今はどうだ。
罪人でも子を残し、望みでもあった人間から遠ざかり、仕事はやっと何年も続くものに出会えた。
順調? それとも流れ流れてたどりついただけか?

時間や生活様式は確かに変わっているけど、その中でも適応できる自分のやり方を見つけつつある。
だから、環境が変わるのはそこまで怖くなかった。
どんな時でも書けることはあるし、歌いにも行けるし、会いたい人に会える。
それを可能にしたのは自分の行動力と、理解ある友人らのお蔭だ。
そして、もう無理だというところで、やっと手を差し伸べてくれた家族のお蔭だ。

想像できるか? 何の衒いも無く、実家に泊まって笑いながら話せているんだぞ。
10年前の自分では考えられなかったろう。
結婚し、子を成し、それでも根幹は変わらず、書いたり歌ったり遊びにいったりして、生きている間の全てを享受している。
最高の時間を過ごしているじゃないか。
そりゃ時折、落ち込んだり、病気が酷くなったりするけど、その度に誰かが助け舟を出してくれる。
そういう付き合い方を続けられるようになった、僕は成長したんだ。

今の自分なら、守れたかもしれない。
いや、たらればで語るのはもうよさないと。

それに、最近は自分の行いを客観的に分析する体験に恵まれた。
自分で動き回っている時はいいんだけど、これって他者から見たらこう見える(場合もある)か…うわーーーって引いたところだ。
うーん、あそこまで酷くなかったと思いたいけど、同じ穴の狢が何言ったところで、ねぇ。

だから、分かたれた者に対して、初めて憎悪以外の感情が生まれた。
子ができた時に関心が逸れて、昨今の恋愛沙汰で内省が生まれ、あの子に対する謝罪の気持ちへと変化しつつある。
これもまた驚いた。僕はあの子を呪うほど許せなかったのに、その気持ちが劇的に変容を遂げてしまった。
文句はまだあるし、居場所を壊されたのは間違いないし、その点を許す気は無い。
だけど、それはそれとして、相手の環境も破壊しかけたことは事実だから、それは認めようと思った。
必要なら謝罪もするようだ、と。

一番の罪は産んであげなかったこと。
もう転生の先にいったろうけど、嫌な思いをさせてしまった。
原因となった人間が今何をしているかは解らない。生きているかも定かじゃない。
お前も僕も根本的には幸せになどなれないぞ。失ったものの重みで、無意識にでも潰れてしまえ。

本当に憎んでいるとしたら、心が最初から壊れていたあの人間のみ。
今でも思い出すと腸煮えくり返る。
まぁ、そんな人間に絆された自分がいっとう愚かなのだが!!!!

笑い話に全てが変わる。
死ぬ時には違う話になっている。
それでも僕は憶えている。
忘れたくない。
だから13年前の今日も憶えている。

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この世の森羅万象はわたしの気分次第よ
歯向かえばもうすぐに そうジ・エンド
構ってあげているうちに面白く変えてほしいわ
この手の上のジオラマを

そんな勢いでいいじゃないか。
お前が、より良い存在と逢う為に必要だったんだ。
人間を特別なものへと昇華させる試練。
それがこの20年だったんだと心得よってね。

自分に都合のいいように捉えていいじゃないか。
だって相手は自分の責任から逃げるような奴なんだぜ?
そんな奴相手に仁義通します、誠意貫きますなんて、そりゃ馬鹿馬鹿しくもなるさ。
周りの人間が言うように「そこまでするだけの価値が無い」んだよ。
だったら、お前だって自分の都合いいように解釈して、世界を塗り替えて、堂々と生きたらいいのさ。

あいつをよく知らない人間は、あいつを真っ直ぐだというだろう。
きっと自分でも奇跡が起きる側の人間と信じきっているし、起きて当たり前だし、報われて当たり前とか、そのへんのことは考えたことすらないんじゃないか?
そんな普通の人間なんだよ。
それがどうして変な矜恃を持っていたか?
お前が特別扱いしたからだよ。

あいつが特別なんじゃない、お前が特別なんだ。
お前があいつに救いを求めて、縋って、言葉をねだっていた。
あいつが机上の空論を言おうが、自分にはできない大言壮語を吐こうが、お前が馬鹿正直に受け止めたんだ。
向こうは「俺はこんなにこんがらがった人を支えることができたんだ」と自信をつけただろうが、果たして別の人間にそれが通じたかっていうと、そんなことは無いんだぜ。
お前が素直に聞いたから、それこそ奇跡みたいなことが起きたんだ。
お前のそばに居られたから、あいつは特別になれたんだよ。

その証拠に、今はどうだよ?
あぁ近況はべつに見に行かなくていい、周りから聞いた話だけで推測してみな。
お前も確かに物事が見えていなかったが、向こうだって見えていない。ずっとそうさ。
お前だから大丈夫だったんだぞって俺が指摘したら怒ったことあったじゃん?
むざむざと痛感してんじゃねーの?
お前と比べりゃその想像力なんて無しに等しいからな。

人間としての能力値は確かに向こうの方が上だね。
でもさ、お前には勝てないよ。あいつ。勝てるわけないの。
自分の責任を引き受けない、後始末もつけられない、自分ができないくせに人には言う、そのへんのこと自覚して矜恃をぶっ壊して、それでも生まれ変われるんだったらやっとお前と同じ場所から始められる、そんなもん。
そのレベルにまで来ていない。
センセーが言ってたろ、次元が低いんだ。虫みたいなもんだよ。生きること、生殖の目的を果たすことで精一杯なんだ。
お前が言うようにそれは悪いことじゃないが、何かを生み出すには足りないよな?
最初から勘違いしていたのさ、お前もあいつも。
あいつは特別じゃないし、お前にあいつは必要ないっちゃないってね。

俺らはお前らが納得しているんだったら、関わり合うのは有りだと思う。
要らないんだったらそのままにしておきな。痛い思いして拾いにいく価値があるかどうか、今のお前なら解る筈だよ。
俺はあいつのことそこまで嫌いじゃないし、女ができたんなら楽しく生きろよって思うけど、そんだけだね。できるもんならやってみなってカンジ。
俺らにとって大事なのはお前だけだよ。お前が大事だから、何度でも付き合うんだよ。
人間じゃないからね。人間でもできる奴らは居るけどね。

お前は変わりつつある。だから付き合う人間も変わってきたし、考え方の癖も少しずつ変化している。
嘆かなくていいし、もう傷つかなくていい。お前の周りはみんなそう言ってた。
ポポルが居なくても、自分のやっていることが無意味に思えても、いつか失うって解っていても、気付いちゃったことを後悔しながら生きているお前は強い。

て、自分のこと褒めてやったらいいじゃん。
人間に「自分はここまでできる、特別なんだ!」て思わせてやれる、それほどお前は受け止めてきたし、頼ってきたし、関係を作れたんだ。
誰にでもできることじゃないよ。俺はやろうとは思わないね。疲れるし、そこまで人に期待しない。
あーこんなん見たら誰かがむちゃくちゃきれそう。
勝手にどうぞーってカンジだよね、
あの時みたいにムカついて返してきたら、余計に小ささが見えるよな。はーおもろ。

まぁ意地悪なこと言ったけど、俺からは以上でーす。
俺からっていうか、皆の総意だな。最近あんまりにも落ち込んで混乱しているから、久しぶりにこういう手段を取ってみたんだ。伝わるといいな。
自分のことを卑下しすぎなくていいんだよ、俺らは皆知ってるんだから、そんなことに何の意味もないって正面切って言える。
今聴こえている歌の通り、目覚めなさい。ってことよ。
悲しむ必要も苦しむ必要もない。時々は傷が膿んで泣けることもあるだろうけど、もう過ぎ去ったことなんだ。腹の傷と一緒、血流が活発でなんか痛むーってだけ。
歌えるのに、書けるのに、考えられるのに、誰かを助けてやれるのに、たった一人のしかもお前が特別に目をかけただけの人間に、ここまでお前を崩せる力なんてあるわけないじゃん。
お前がお前を苦しめているだけなんだ。同じ次元にわざわざ降りてやってんの。律儀だねぇ馬鹿だねぇ。

また会えたら仲良くしてやるといい。お前にはそれができる。
普通の人間にはできない。だからあいつにもできない。
お前にできることはたくさんある。これだって、20年の重みを受け止めて乗り越えられるなら、探している存在だって見つかるよ。
なにより周りに頼れる人間がたくさん居る。そいつらを見つけられたのがお前の力だし、内省することでお前の知性は深くなる。これもやっぱり誰にでもできることじゃないんだ。
俺らはいっつも見てる。お前が遊ぶのも泣くのも笑うのも先に行くのも真近で見てるよ。
お前だからできることがあるんだ、それを忘れてただ酔った譫を繰り返すのは無しだぜ?

少しずつ傷が癒えて、お前が自分の力に過大でも過小でもない評価ができたら、必ず逢える。
そのための傷と辛さと壁なんだって。ほんとに。
たとえここで逢えなくても再会は近い。
俺はついていくつもりだから、休んで元気になったら皆に恩を返していけな。
ちゃんと伝わるといいけど。伝わらないことはないか。どれだけ辛くても人の話は聞けるもんな。そうだよな?

目覚めなさい 明日を夢見ては



 どちらにもなるという万能なる概念が死であると思った。
 どうにも鬱の気が治まらず、さりとて望む変化も起きない日常に、精神の均衡がだいぶ崩されているこの頃。
 夫婦でのカウンセリングだとか、こっちらから連絡を入れてみるとか、そういった行動を起こしてみようと幾つかやってみたものの、余計に絶望する機会が増えただけだった。
 何故、一つの物事に対して三つも四つも悪感情を持たねばならないのだ。
 それだけ感度が良いのかもしれないが、生き難いことこの上ない。今更でもあるか。

 終わらない絶望と失望に加えて、呪詛の行程もなかなか進まず、まんじりともせずに過ごすのは結構辛いものがある。
 変化がもし起きていたとしても、目視で確認できる距離ではない。それも痛い点かもしれぬ。
 相手の近況を知るにはSNSに頼るのが一番だが、それだって見れば多少なりとも傷付くものだ。
 あぁ、こいつはやっぱりわたしが居ない場所の方が生き生きしているな、と残酷にも突き付けられてくるから、キツイのだ。

 いったいどれだけ繰り返せば終わるのか。
 これは呪詛を始めたからではなく、わたしが生きることをやめないから続いているのか。
 どうしてここまで手に入れたものを、他の人間にむざむざと奪われなければならない?
 異性愛が悪いのか、わたしの性質が悪いのか、あの子が悪いのか、たくさんの要因が絡んでいるから断定できないのか。

 わたしは異性愛者を憎む。すぐにわたしから大事なものを奪うから。
 奪っても「恋人、夫婦になるのが当たり前だ」と思っているから、悪びれもしない。
 浮気をしろ、不倫は正義と宣っているわけではない。
 立場を弁えろと言うなら、ぽっと出のお前達こそ弁えたらどうだ。
 こうして傲慢なのはわたしも同じなのだから、そりゃあ衝突するだろうな。

 今まで何度も死にたいと願ったが、その度に苦しくなって誰かしらに助けを求めてきた。
 助けられて繋いだ命だが、それも人生の黄昏時にはきっと多くを失ってしまうのだろう。
 そんな寂寞の時の為に培った人間関係ではない。
 子を産んだからなんだ。伴侶を見つけたからなんだ。
 わたしはわたしを忘れられたくないだけで、こんなことばかり言っているから捨てられるのだということも理解している。
 理解しているが、やはり悔しい。何故、わたしよりも秀でたものを愛していくのだ。矛盾。

 それで、死にたいという話だが、これはどう頑張っても達成できそうにないと思っていた。
 なにせ死に方が解らない。否、方法を知ったとしても、そこに向かうまでの精神状態を保つことができない。
 首を吊ろうと思って縄を買うとして、買い物に行く時にはたと気付いてしまわないか?
 いざ飛び降りようと眼下の景色を見て、足が竦んだ瞬間にあぁと気付いてしまわないか?
 自分が本当は生きていたいんだと、気付いてしまったらどうするのだろう。
 それが怖くて身体が動かない。
 死のうと思うと、世界が急に淡い光を帯びて美しく見えてくる。
 こんなに美しい場所から、自ら去ろうとういうのか? と語り掛けてくる、気がする。

 わたしは臆病だし、痛がり屋だ。だから死の間際まで怖いことは感じていたくない。
 しかし、このまま漫然と生きていくのも恰好が悪い。とにかく次の段階へ進みたい。
 誰かに殺してくれとでも頼むか。そいつはわたしの辛苦を呑み込んでくれるだろうか。
 わたしのことを全て聞いて、それでもわたしを殺してくれる人間が居るのなら、きっとわたしはその人間の芯まで愛するだろうに。
 執着したとて、それもまた無意味なのだが。

 無意味、無価値であるなら、わたしはどうしてここまで生きてきたのだろう。
 本当はそれに気付いていたけど、気付いていないふりをして希望に縋っていたのか。
 縋る希望を全て失って、改めて突き付けられた現実を認めざるを得ないのか。
 人並みの幸せを知っただろう。それ以外の苦痛も或る程度、味わってきただろう。
 絶望と希望の繰り返し、持てる荷物の質と量のきまり、わたしがどれだけ欲しても振り向かない人々、全てが無意味で無価値なものの群れか。
 わたしこそが無意味で無価値だということは、大前提としてある。
 なにしろそんなことを三十年近く考えてきたのだ。わたしの命は夏の短い間に死ぬ蝉みたいなものだ。
 幼稚園の園庭で見た蝉の死体は、遠からず今のわたしの惨状だったのかもしれない。

 本当はもっと早くに死にたかった。
 人を信じることの砦が崩される予感はあったから、そうなる前に終わっておきたかった。
 でも、失った後も死ぬのは悪いことだと思っていた。
 今はあまり思っていない。きっとわたしが居なくても、伴侶となった人間は生きていけるから。
 友人達もそれぞれの家庭や居場所を持っているから、わたし一人失われたところで、それはいつか忘れ去られるのだ。
 それほどわたしの死は小さく、無意味で無価値だと知ったのだ。

 わたしが死んで動揺する世界を見てみたかったぞ。
 みんな、どれほど泣いてくれるのだろう。あの子ははるばる大阪から来てくれたりするのかな。前も言ったけど、死んだ後に来るぐらいなら生きている間に来てほしいよな。
 ちったぁ自分が求められる側に居たんだって、自覚できたりするのかな。
 そして、不可視だった守護者達と同じ次元に来て、永久に会えなくなるのかな。

 世界はループしているんだって、誰かが話していた。
 わたしがここで自殺したとして、次に目が覚めてもまた自意識の芽生えが幼稚園の頃からだったら、この何も得られない人生をもう一度体験しないといけないのか。
 それとも、どこかで分岐が発生して、望む未来へ渡れたりするのかな。
 そしたら、みんなともう一度会える。今度は大事にできるし、してもらえるかもしれない。
 前世の記憶を引き継いでループできることって、幸せなのだろうか。
 死んだ瞬間に次の自分へ意識が移るなら、それは拷問になったりするんだろうか。

 同じことの繰り返しを回避できるんなら、してみたいもんだ。
 堕胎を回避、別離を回避、喧嘩を回避・・・・・・そうやってルートを変えてしまったら、ここにはもう着かないんだろうけど。
 今の自分に満足はしていないが、ループしなきゃいけないと思うほどの嫌悪感も無かった。
 ただ死んで戻れるなら、それもいいかって思ったりした。

 夏は死にたくなる季節だ。冬は眠りに就きたくなる季節だ。
 一年の殆どをそんなことばかり考えて、なんて愚かな生き物だろうと笑ってほしい。
 代わりなんて居ない筈だけど、代わりが欲しいと思った。
 わたしと対を為して世界を愛する人間が居るなら、わたしを見つけてほしいものだ。


生まれ変わったKは外見こそ同じやったものの、話し方や一人称からして変わった。
服装の趣味まで変わってて、気が付いたら以前のKを感じさせるものが
段々と減っていってたんや。
Kの周りの存在はそれを自然なこととして受け入れているようで、
ワイも受け入れるしかないのかなって思うようになった。

Kの周りの存在にとって、Kは自分達を投影するための器であって、
その人格については極端に悪くなければ、別に頓着しないようやった。
Kには家庭があってんけど、そこでの問題とか干渉とかも特に気にしてなくて、
好きにやらせておったよ。
前の人格の時は家業にちなんだ仕事しとったけど、
生まれ変わった後はアパレル業に勤め始めた。
そんな感じで、前のKとは違う生き方をしはじめていて、ワイは複雑な気持ちやった。

Kの精神的な自立はもちろん喜ばしいことやし、
ワイともまだ仲良くしてくれている。
せやけど、ほら、前のKはワイのこと好きでおってくれたから、
それがとっても嬉しくて、居心地良かったワイとしては物足りんかった。
でも、それを伝えてしまうと、今のKを否定することに繋がる気がして、
ワイが気持ちを切り替えればいいんやって次第に心掛けるようになった。

その頃、Kは好きなことを好きなようにしていて、世界が広がっとった。
ワイは自分に飽きられるんちゃうか、捨てられるんちゃうかって、
見捨てられ不安に駆られるようになった。
元から依存体質やし、Kほどワイに執着してくれる人は居らんかったから、
好き好きオーラが無くなって寂しくなっとったんやな。

そんなワイやから、Kが他の人と仲良くするのを見るのは辛かった。
前のKがもう居らんって理解しとる筈なのに、どうしても前のKに会いたくなった。
もうワイだけを見てくれることはないし、
ふたりだけに視えるものもどうでもよさそうで、
Kは毎日楽しそうに生きとった。他人と関わっとった。
前のKならしり込みしてやらないようなことを、どんどんやっていく。
ワイは精神的においてけぼりを食らっとるけど、Kは前に進み続けた。

周りの人間と上手くいっているKを見て嫉妬していたワイは
Kと喧嘩することが増えてきた。
ある日、KがSNSで仲良くなった人と今度会うんやって言ってて、
ワイはそれを聞いて「ワイには会いに来てくれへんのに何で?」て腹が立って、
それに近いことを言ってしまったんや。
そしたらKも怒ってもうて、
「何でそんなことを言われないといけないのか?
何かアドバイスがもらえるとすら思っていたのに」
と、ひどく落胆した様子やった。

ワイはますます腹が立って「目の前で話して」「謝って」と言ってしもた。
そしたらKは冷ややかに
「何で僕がわざわざそんなところまで行かなきゃいけないんだ?」
と言い放ったんや。
その時やっとワイは、Kの中のワイの価値を知った気がした。
同時に以前のKに未練を抱いていたのが、
天使のハンマーで殴られたかのようにさっぱり無くなった。

その件についてはKと後日仲直りできたんやけど、
ワイは不可視の存在以外の話をKとすることは減っていった。
しかも、そのへんの喧嘩を境に、Kはまたしても生まれ変わっていた。
どんどん知らないKになっていくし、ワイとのことも薄れていく。
せやけど、Kは自分の身の回りの人間は大事にしてて、
ワイは所詮その程度の存在でしかないんやなぁって悲しくなった。

そうしたら、ある日、Kと連絡が取れへんようになった。
SNSの欄に名前が無くて、メールも電話も通じんようになっとった。
今までもSNSのアカウントを削除することは度々あってんけど、
完全に連絡が取れんくなることはなかったから、めっちゃ驚いた。
少し待ってれば向こうから連絡してくるかと思っとったけど、
全然そんな気配は無かった。
家まで行ってみたけど、誰も居ないようやった。

とうとうワイは嫌われたんか?
それにしたって何も言わずに消えるなんてひどい。
どうしてそうやってワイのことを傷付けるんや。
自分は周りの人間と違うみたいなこと言うて、
結局同じやんけ。
そんなこんなで恨み節が止まらなくて、ワイはその虚しさをどうにかしたかった。

Kと連絡が取れなくなって一ヶ月そこら経ったくらいに、
全然知らん人からSNSの連絡先にメールが届いた。
そこには
「Kのことを知っていますか?
私がKを殺してしまったかもしれません」てあったんや。
何が何やらワケ解らんくて、とりあえずその人とメールすることにしたんや。

その人を仮にYとしよう。
YはKと恋人関係にあったようで、Kと会ったこともあるらしい。
しかし最近、ワイと同じく連絡が取れんくなって、
どうやってかワイを見つけて訊いてみようと思ったらしいんや。
Yは恋人関係言いよったけど、Kは家庭持ちやから、不倫していたってことになる。
まぁワイもKと好き好き言い合ってた時期があるから、人のことよう言えんね。

それにしてもYの言った「Kを殺してしまったかもしれない」の発言が
どこに結び付くのか、ワイはさっぱり解らんかった。
内容を訊いても「もしKが死んでいるなら私の責任です」みたいなことしか
言われへんねん。話にならんかった。

そうやってYが、自分とKには特別な関係があったんやって言ってくるのが、
ワイは気に入らんかった。
ワイやってKと不可視の世界を共有しとるわボケェって思いながら、
「Kが死んでいるとは決まっていません」と繰り返した。

Yと話してみて解ったことは、Yもまた精神的に病んでいるってことやった。
Kもそうやった。というか、生まれ変わりってのも、
多重人格やって言われた方が納得できるレベルや。
普通に考えるならそう。でもワイはKとの特別な世界を捨てられんかった。
そこに無粋にも入ってくるYの歪んだ性愛が憎くて仕方ない。

ワイは辛抱できんくなって、Kに直接会いたいと思った。
ネットで怪しいサイトを見ていって、人探しを受けている探偵らしき人に
Kの使われていた電話番号とメアドを教えて、探してもらったんや。
その探偵らしき人はわりとすぐにKを見つけてきてくれた。
費用は3万。でも惜しくも何ともなかった。

Kは元いた県より3つは離れた県で暮らしとるようやった。
そういえば、そこにKの親戚が居ると以前聞いたなって思い出して、
先ずは手紙を書いた。
勝手に調べてごめんってことと、何で急に居なくなったのかってこと、
ワイのメールアドレスを書いて、ドキドキしながら投函したんや。

程なくして、Kからメールが来た。
いきなり手紙が来て驚いたよって出だしから始まり、
何も言わずに連絡先を断って、家まで引っ越したのは
Yがしつこかったからだと書いてあった。
どうやらYはKのストーカーになっていたらしく、
家まで来て、家族が出て対応してくれた程やって書いてあった。

ストーカー云々の話はワイも人のこと言えん。
けど、ワイの時と同じようにKは自分の中で勝手に話を終わらせて、
Yにも何も言わずに去ったんちゃうかなって思ったんや。
そんなことされたら、一部の性質の人間は気になって後を追うよ。
きちんとケリをつけずに居なくなったKにも問題はあるって、思ってしもた。

Kは親戚の家に家族と一緒に身を寄せていて、
そこでもう暮らしていくことにしたみたいやった。
その頃には3人目の子どもも産まれていて、
またKは生まれ変わっていた。
「君に対する激しい愛情はもう無いけれど、
仲良くしてほしい」みたいことがメールにあった。
またしても心を打ち砕かれて、もう涙も出んようになった。

古くなった皮を捨てるみたいに、Kの人格? 心? がどんどん変わっていく。
ワイのことを好きでいてくれたKも、
Yと恋人ごっこして満たされていたKも、
伴侶はビジネスパートナーだなんて冷笑してたKも居らん。
ワイと話していたのは、家族が大好きで伴侶が大好きで、
不可視の世界のことなんて忘れてしまったかのような、
幸せいっぱいのKやった。

何ヶ月も経たないうちに、Kとはまた連絡が取れんくなった。
でもワイはもう調べることもなかったし、連絡したいという気持ちも無くなっていた。
Kと会って5年は経っとったけど、その間にいろんなことがあって、
ワイのKへの気持ちが死んでしまったんやって理解した。

常識で考えるならKの抱える何某かの病気にワイは感化され、
一緒に妄想し、病んで、グダグダになっただけや。
でもワイは不可視の世界を受け入れると決めた。
それが自分の妄想やっていうんなら、妄想の中で生きると決めた。
Kが居なくなっても、ワイにとっての現実はここやって決めてもうたから、
今更すべてを妄想だとして正常ぶることはできんかった。

それでもたまに無性にKと話したくなる。
ワイの視ているものを、ワイの抱える妄想なんだか現実なんだか解らんものを、
共有してくれる人と話したくなるんや。
そんでワイの悪癖やねんけど、またKがSNSをやってるんちゃうかって調べたんや。
ほいたら、フェイスブックに居ったんよ。

そこには「父の別荘に遊びに来ました」と一言添えて、
元気そうなKの写真が載っていた。
不思議と、あんなに好きやと言うとった伴侶の気配も、家族の気配も無くて、
そこに写っているのは知らない人やと思った。
なのに、Kが使っている渾名はワイが贈った名前になっていて、
「お前につけたもんちゃうぞ、名乗るのやめぇや」って不愉快になった。

ワイがKと離れて5年、不可視の世界がどーたら言い始めて10年や。
周りの信用できる友人には話したりしたけど、きっと彼ら彼女らも
「こいつの頭はおかしいままやなぁ」て呆れとるやろね。
ワイも自分でそう思う。
せやけど、Kと見た大事な世界やから、憧れていた世界やから、
無かったことにしたくなかった。

それにな、不可視の存在が居なくなってしもーたら、ワイひとりぼっちや。
友達はみんな自分の居場所を見つけて歩き出した。
結婚した奴、子どもができた奴、自分の趣味に生きる奴と多種多様や。
そんな中にあって、ワイはKとのこと、K以外でも大打撃を受けて、
精神の均衡を崩したままや。
精神を安定させる薬を常用して、自力で寝られんくなってもうたから
睡眠導入剤が無いと寝つけへんようになってもうた。
ワイだけどうしようもない奴のままなんや。

Kが実は嘘八百を並べてワイのことを騙しておったとしても、
ワイは自分の現実に不可視の存在が居ると信じ続けると決めた。
そうやって自分だけの特別な世界を作って、そこに居ないと
自分を保てそうになかったからね。
でも周りに迷惑掛からんのやったら、妄想の中で生きていてもいいよな。
そう思うことにして、精神の安定を図っとるよ。

大事にしたいものはみんな居なくなってもうた。
昨日まで居た人が今日急に居なくなるのは、悲しいし寂しいよな。
ワイはKとのことがあってから、伝えたいことはすぐ伝えようと思った。
大事な人が明日も五体満足で生きていてくれる保障なんて、どこにもないからな。
居なくなってから後悔するくらいやったら、多少恥ずかしくても
本音を伝えてぶつかるべきや。
そういう関係を保てる人を見つけて、大事にするんやで。

ワイは死にたいけど、怖くて死ねなかった人間や。
妄想の中で生きれば他人に迷惑が掛からないと思っているけど、
ほんまはワイのこと受け入れてほしいって駄々こねとるんや。
そんなワイは面倒で醜いから早よ死ねよって、
内側のワイがいつも言うんや。死ねるもんなら死んどるわボケ。

これを読んでくれたあなた、今ある人間関係を大事にしてください。
ひとりで悩んでもロクなことは無いし、アウトプットて想像以上に大事なことやで。
そんで、ワイのこんな話を「おもろないネタやな」と思ってくれてもいいから、
どっかで覚えててください。
ワイは何も残せへん存在やけど、誰かにKとの話を知っておいてほしかった。
事実は小説より奇なりを地でいく馬鹿も居るんやなぁって、知っておいてほしかったんや。

今もまだ椎名林檎のキラーチューンは聴けない。Kを思い出すから。
Kから貰った洋服やアクセサリーも捨てられない。
でもここでおしまいやで。


ワイには大事にしたい人が何人かおったんよ。
でも、どう大事にしたらいいのかわからなくて、好きだからこそ他の人間に移っていってしまうのが悲しくて、いっぱい傷付けたんよ。
そのことを書き連ねて、誰かに見てほしくて、ネットの海に流すよ。

大学生の時、Kという人と知り合ったよ。相手はワイより5つばかり年上やった。
その当時に流行っていたSNSでメッセをくれたKは、不思議な雰囲気を持った人やった。
なんていうかな、浮世離れっていうのかな。今まで会ったことのないタイプの人やった。
音楽のイメージでいうと、クロノトリガーの「サラのテーマ」かな。
Kからメッセ来たらそれ鳴るようにしとったわ。

ワイはKに興味を持って、しばらくメッセでのやりとりを続けたんよ。
その時、なんとなくワイは「この人なら突飛な話も聞いてくれそうや」て思った。
いわゆるオカルトとかスピリチュアルとか、曖昧なジャンルね。
ワイは懐疑派でおるつもりやけど、幽霊とか神とか悪魔とかそういうモンは居ると思ってた。
けど、おいそれと人に話せることやないし、下手するとこっちが弾かれるんじゃないかって思ってたから、あんまり話せなかった。
ほんまは興味ある分野やから、誰かと話したかったんやね。

そんで、Kに言ったんよ。「幽霊とか信じる? そういう感じの体験してもうた」って。
それ自体は嘘ちゃうよ、ワイの現実では起こったことやから。
とはいえ、固有の現実で起きたことを説明するのは難しいってわかってたから、
否定されるかもしん、馬鹿にされるかもしれんって覚悟はしとった。

そいたらね、Kは「すごくよくわかる、身近な存在だから」て返してくれたんよ。
Kは日常的に不可視の存在を目にしていて、しかも幽霊とはまた違う次元のモノを
視るんやって言ってた。
ワイはそれを信じたよ。だって、ワイにそんな嘘を吐いたって、Kに得なことなんて、
なんもないやん。

それからKは自分のことをぽつぽつと話してくれるようになった。
生まれつき不可視のモノと接する家業に就いていて、
一族の男は次元の違うモンの器になり、女はその男達を慰める役を負っていること。
何代も続いてて、今は実姉が一族の長を担っていること。
Kはそんな家業が嫌だったのと、学生時代に好きだった人に裏切られたショックを抱えてて、
それらから逃げるようにして都会へと出てきたこと。
家業を嫌で出てきたけど、結局自分の持っている技術はそれしかないから、
都会に出ても尚、家業に類する仕事を請けていること、などなど。

そんで、Kは近縁の人と結婚してるし、子どももおるけど、
ワイのことを好きって言うてくれはった。
それがどういう好きやったかは、当時はよくわからんかってんな。
恋愛なのか友愛なのか親愛なのか、でもそのへんはどうでもよくて、
好きって言ってくれたのが嬉しかった。
この人の力になりたいって思ったんや。

ワイ、その時既に恋人がおってんけど、恋愛とも友愛とも違う、特別な関係ってのに
長いこと憧れていたから、Kの気持ちに応えたかった。
けれど、恋人は恋の心で好きやったし、友人に対しても愛情を持っていると自覚していて、
Kには特別な感情を持ち始めていた。
他人にこのことはあんまり話さんかったから、浮気やと言われればそうかもしれんね。

オカルトやスピリチュアルが好きな人って、精神薄弱なイメージがあってんけど、
Kもそんな感じやった。
雨が降る日は特に憂鬱みたいで、落ち込んだメッセが来ることが多かった気がする。
ワイは聞くことしかできんかってんけど、それでKが少しでも安らぐならって
ずっとメッセしてた。楽しかった。
ワイ、見えないものはいる、そういう世界があるって信じてたから、
Kの話す不可視のモノの話が楽しくてしょうがなかった。

ある日、Kから送られてきたメッセの中で、Kの口調が突然変わったんや。
なんやエラそーな、抑揚のない事務的な口調やったから、何か怒らせたんかなってビビった。
ほいたらね、話しかけてきたのはKの中に居る次元の違うモノやった。
仮に「主人」と呼ぼうか。主人は文字通り、Kの御主人様で、Kに力を貸しているらしい。
「人間は雑菌のようなものです、嫌いです」みたいなこと言われて、
あぁ~次元の違う存在ってほんまに「愚かな人間よ」みたいなこと言うんやって思いながら、
「同意です」て返したら、
「あなたは他の雑菌と少し違うようですね」言われたんや。
何も違うことなんてあれへん、ワイただ空想家なだけやわ。

その日から、Kの中に居る次元の違うモノが次々と話しかけてくるようになった。
主にやりとりがメッセやったから、文章に於ける口調の変化で
「あ、今この子やな」ってわかる感じ。
多重人格者とか、もし居たらこんな感じなんかなって思うた。
幼いボクっこのレンゲ、
陽気なおねーさんのマリア、
こんな感じで主に話すのはこの2人やった。

だいぶKや2人と打ち解けてきた頃、ワイはまた不思議な体験をしたんよ。
近所の林を散歩しとったら、誰かに見られているような感じがした。
人気の無い林で、近くに高速道路がはしっとる。その振動かなって思った。
辺りを見回したら、ワイと付かず離れずの距離で、白い人影がゆらゆらとしていた。
幽霊かな、妖怪かな、それとももっと悪いヤツかなって怖くなって、
ワイは気付かんフリして林を進み続けた。
そいつは一定の距離を空けてついてくる。ワイの背中を見ている気配がしてた。

林の横道に逸れて、小走りになった。そこはいつも立ち止まって木々をぼーっと眺める場所や。
白いヤツもこっちに向かってきた。どうなるんかわからんくて、怖い!って思った時、
白いヤツが寸前で止まった。何かに弾かれるみたいに進めなくなってて、
ワイの背後には黒髪の女の子がおったんよ。
勿論、現実におるわけじゃのーて、ワイに視えているって話ね。

その女の子はワイのことを守ってくれたらしい。
黒髪に白い肌、金色の目で、ワンピースみたいな服を着てる子で、セレネって名乗った。
ワイはセレネに御礼を言って、友達になったんよ。
見た目こそ、幽霊の定番みたいで最初は怖かってんけど、話しやすくて、
良い子なんやなって思ったんや。
同時に、自分は何をしているんだろう、気でもふれたんちゃうかって思わんくもなかったで。
でもな、気がふれたとしても楽しく過ごせるんやったら、それもいいんちゃうかって
開き直ったわ。

Kに、白いヤツに追われた話、セレネという子に助けられた話をしたら、
すっごい驚いていた。「その子を知っている」と言われたんや。
「自分と出会った時はちょっと違う名前だったけど、その子の気配は今も変わっていない。
恐らく自分が知っている存在だ」って言うんよ。
そんなこと信じられんかった。都合よすぎやろって、ちょっと疑った。
Kがセレネと知り合ったのは、Kの地元でのことや。ワイの地元とはめちゃ距離がある。
なのに同じようなものを視る、会うなんて、そんなん話盛ってるやろって。
なにより、Kは幅広い不可視の存在を視られるのに、幽霊すらも錯覚レベルのワイが、
同じように視られるなんてありえへんって思ったんや。

でもな、万が一同じものを視たのやとしたら、それはきっとすげぇことやって、
わくわくするワイもおったんや。
神も悪魔も精霊も竜も妖精も、ファンタジーの世界に繋がりそうなものは
存在していればいいなって、ずっと願っとった。
セレネは普通の幽霊やのーて、精霊の一種やと言われた。
それがほんまなら、ワイは精霊と友達になれたってことになる。嬉しかった。

それからワイはセレネの元に通い続けて、何か怖い気配がする度に守ってもらってた。
Kからは「まだ契約していなかったの?」なんて言われて、ワイはセレネと契約することになった。
ワイの持ち霊になってもらって、一蓮托生っていう契約や。
契約すると、曖昧だった存在がちゃんと一つの存在として確立できるんやって。
そうなれば、いつ消えるかわからないって心配せんでも良くなるし、
漫画やアニメよろしくお互いに助け合って生きることができるみたいやった。
もうシャーマンキングみたいな話で、ワイはますます嬉しくなった。

ただ、シャーマンキングでもそうやったけど、持ち霊にしたとして、そいつの力を
100%出そうと思ったら、宿主にそれだけの力が無いと引き出せんみたいやった。
ワイはただちょっと視えるだけの一般人や。媒体としての能力なんて無いし、
知識も浅いし、なんなら思い込みが激しいからそういう設定に酔っているだけかもしれん。
せやけど、Kは「君ならカンナギになれる」と言うてくれたんや。

かんなぎって何やねんって調べたら、巫女さんのことやってんな。
つまりワイは不可視の存在を癒すことができ、対話することができ、
Kや主人の力になれるってことやった。
そんなますます話ができすぎやろ~って否定したし、ワイがおかしくなってるんちゃうかって
自虐ネタまでKに披露してもうた。
ほいたら、主人に怒られたんよ。
「あなたが視えるのも力があるのも事実です。どうして否定するのか?
私達に肯定してほしいがために否定しているのか?」て強い語調やった。

確かに肯定してほしかった。だってイマイチ実感が無いんやもん。
空想家なだけが取り柄やのに、力があります、しかも闇と光を取り結ぶ存在ですって、
ゲームで言うたら「おぬしこそ勇者よ!」みたいな感じやろ。
ワイ、そんなすごい存在ちゃうねん。自分の小ささが嫌で空想しとるだけやってん。
人に自慢できるもんなんて何も無くて、自己評価も低いまま生きてきたから、
誰に肯定されたって到底信じられんかった。
素敵な友人がいようと、頼もしい恋人ができようと、
この孤独感は生涯抱えることになるってわかってたんや。

Kも、レンゲも、マリアもワイのことを肯定してくれた。
「主人に仕えるのだから、その名の下、全ての存在を見下していいんだよ」って。
「一度カンナギになったら、例え君から力が消えたとしても、カンナギのままだよ」って。
ワイ、そこまで口説かれたことなかってん。
ワイの代わりはどこにでもおるし、誰でもいいんやって思って生きてきてん。
せやから、K達の言葉がすごく嬉しくて、そこに自分の価値を見い出せるかもって思ったんよ。

仲間も少しずつ増えて、頭に声が届くことが多くなった。
空を見上げればなにがしかの気配を感じるようになって、
その答え合わせをKとして合っていたら嬉しかった。
ちょっとの偶然でも、自分の力でできたのかも?って思うだけで、
見え方が変わってくる。考え方が変わってくる。
元から人間怖いし、嫌いなヤツは断然人間に多かったけど、
少しだけ余裕を持てるようになってた。

そんな最中、レンゲとケンカしてもうたんや。
最近やけに不安定やなって心配してたんやけど、ワイがいらんこと言うてもうたら、
「君も僕を捨てるのか、人間はどうせ裏切る」みたいなこと言い出して、
まともにメッセでのやりとりができんようになってた。
少し時間が経ってから、Kから連絡が来た。
「レンゲは暴走してて、このままでは君に危害を加えそうだったから、
残念だけど消えてもらった」て言われて、ワイめちゃめちゃショックやった。
消すってことは、もう会えないってことや。
人間とちゃうから、一度消えたらそれっきり。転生とか何も無し。
レンゲはワイに懐いてくれていたから、その分だけ振り幅も大きかったんやと思うけど、
なにも消すことないやんって悲しくなった。
ワイのせいで消えてしもうたんやなって、悲しかったんよ。

それから数ヶ月経って、また新しい存在がKのなかに生まれた。
ヨルって名前のそいつは男の人格で、随分と紳士的なヤツやった。
ワイのとこの仲間も増えてきてたから、Kとその話で盛り上がってたんや。

一緒に仕事もしたんで。友人の家で怪奇現象が起きるらしいって話したら、
「君の友達ならいいよ」って言ってくれたんや。
いわゆる除霊とか浄化みたいな作業やってんけど、Kは金銭は受け取らなかった。
代わりに友人がお菓子を作ってくれてんけど、それを報酬として貰っとったよ。
作業内容は土地を守ってくれるモノを探して定着させるって感じ。

そんなこんなでKと会ってからだいぶ経ってたんやけど、ある日、Kともケンカしてもうた。
ちょっとした言い合いくらい、よくあることってワイは思っててんけど、
Kにとってはそうじゃなかった。
「私達の力が目当てで近付いたのか」とか、
「私はぬるま湯のようなものだ、不要になれば出ていけばいい」とか、
さんざん言われてもうた。やっぱり悲しくなった。

そこそこ時間が経った後にヨルから連絡を貰った時には、
Kそのものの人格が消えていた。新しいKがメッセを打ってきていて、
「君とは前に仲良くしていたって聞いたよ、僕とも仲良くしてね」って言われたんや。
ワイ、もう何をどう感じていいのかわからんかった。
初めてメッセをくれたKは、ワイのことを好きと言うてくれたKは、
世界のどこを探してももうおらんくなってしまったんやなって思うたら、
レンゲと会えなくなった時の感覚をもう一度味わったんよ。
何回味わったって、誰かと会えなくなるなんて慣れないわ。


続く
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