番
たぶん望んでいたのは、そういう関係。
絶対に切ることの叶わないきょうだいの契りのような。
盃を交わせば、それは血の繋がりよりも濃く強いものと呼ばれるような。
そういう関係になりたかった。なれるとは信じていなかった。
相手が望んでいないことを、最初から知っていた。
『蝶』を聴いて、僕はあの子の一番の居場所になりたかったと思っていたことを思い出した。
でも、生涯でそんな願いが果たされるわけないと、すぐに思い直した。
それを何年も繰り返している。相手は気付いていそうだが、きっと何も言わないだろう。
口を出すと面倒なことになるからな。
この現状に他の設定があったら、他の世界観があったら?
さぞや生きづらく大変な世の中になっていただろう。
例えばオメガバースのような関係でも、悲劇なんて幾らでも生まれそう。
それらを共有できるだけの人間なんて、どれくらい居るんだろうか。
僕の言っていることは大仰で間違っているだろうか。きっとそう。
でも、そういう夢をずっと見続けている。そういう想像の世界で生きてきた。
だから離れられてしまう、捨てられてしまう。そんなことも理解し尽くしている。
自分だけのもの、自分だけの存在、離れていても想い合えるとか、信じていられるとか。
そういう居場所になりたかった。僕にとってはそうだっただろうか。
信じていると言ったけど、裏側では信じ切れなかった。
どうせ他の人間を選ぶから、と。僕には解っているから、と。
そういう繰り返しを希望と絶望とで何度も味わって、まだ死なない心を称賛してほしい。
もう死にたい。疲れたわ。僕ばっかり悩んでいるって思ってしまう。
自分の見えている範囲の物事だけで判断してはいけない。
そうは言っても見えない。近くに居ない。
近くに居ないから、こんなことになった。それもあるかもしれない。
スピリチュアル界隈で言うツインレイとか、運命の人とか、そういうものではない。
だけど、確かに大事で、共有できたものがあった。
それより大事なものを相手が作ることも解っていた。
本当に何度も何度も繰り返したんだ。楽になれる気配は一向にしない。
期待しても何も手に入らない。元には戻らない。
じゃあ過去に戻りたいか? 戻れるものなら、戻って話をしたい。
お前はこれから僕を捨てるんだ、本当に捨てていくんだぞ、と過去を責めたい。
夢物語もここまで来ると滑稽を通り越して悲惨だ。
どうしてこんな存在がまだ生きているんだと、皆が不思議に思うだろう。
僕も不思議だ。壊れきりたい。死んでしまいたい。なのに、まだ生かされている。
やっと頭痛がしてきた。身体の気怠い感じがやってきた。
どうしてまだ精神が壊れていない、何で心はまだ痛みを感じるのだと、問うのも飽きる。
飽きるけど、続く。楽しいことの後も、忘れられない。続いていく。終わらない。
精神を汚染された。脳を破壊された。トラウマになった。
責め苦が続く。永遠にも思える問答の繰り返しを内側に押し込んで、日常を過ごす。
それはきっと相手も同じ。いや、相手のが上手くやっているかもしれないな。
怒りは虚しさに変わって、今は悔しいと感じるみたい。悲しいのはいつも。
それすらも同じかもしれないね。そういうとこは重なるのにね。
番のような唯一無二になれなかった時点で、選ばれなかった時点で、おしまいだったのか。
それとも経験を積んだ後なら、僕の言うことも少しは解ったのか?
意味の無い問答がまだ続く。頭痛いし疲れるし、意味無いんだから黙ってほしい。
何で僕ばっかり。何でいつも傷付いて悲しんでばかり。
僕のものになってくれないのは解っていたから、そういうこと言わないようにしていたのに。
依存だ不健康だと外野は言うさ。健常な人々には恐ろしいものだろうさ。
お前はどうなんだ。そう思っていたから、踏み出さなかったのか。利口だね。
どうやったら恐れることなく死ねるんだ。
ずっと相応しくない場所で生きてきてしまった罰も、もう終わりにしてほしい。
番が欲しい。捨てないでいてくれるものを。捨てられないように頑張るよ。
あの子に捨てられるなんて思わなかった。いや、思っていたけど。
大切なものと分かたれた人はこの世にいっぱい居ると思う。
僕に起きたことも、そういったありふれた別離に過ぎない。
落ち着いて見たらそれだけのこと。
でも、それが何だというんだ。救いにならない。
救われないだろうけど、救われたい。
報われないだろうけど、報われたい。
忘れられたくないのに、忘れられてしまう。
どうして守り切ってくれないの。へたくそ。